洒落怖超まとめ

厳選じゃない、完全網羅のまとめサイトを目指しています

さくら池

   

642 名前:さくら池(1/2) 投稿日:04/06/28 01:44 ID:33szBuz/
僕が、小学校の頃のはなし。通学路から少し外れたところに
さくら池という、かなり大きい農業用水池があった。
僕たちが住んでいた団地は、さくら池の先にあったから
下校途中、大きく迂回する通学路をはずれ、そのさくら池の
ほとりを通る近道を通って帰るのが常だった。
大人たちに見つかり、学校に通報されると、当然、叱られる。
昼でも暗いような竹やぶを抜け、赤土むき出しの切通しをくぐり、
池の土手の未舗装の道を行くそのルートは、人通りも無く
いろんな意味で、やばい感じがしたけど、またそれが魅力だった。

五年生の秋口の頃、そんな僕たちの学校に、奇妙な噂が広まった。
日が暮れてから、その近道をあるいていると、さくら池の
真ん中あたりに、火の玉が浮かぶというものだった。
いつの間にか「その火の玉を見つめてはいけない」という警告も
加わっていた。その警告の出所は、地元の生徒のおじいちゃんや
おばあちゃんらしい。親の代に越して来た僕ら団地の住人には、
今ひとつピンと来なかったが、地元の生徒は近づかなくなった。
きっと僕らの知らない、古い言い伝えでもあったのかもしれない。

僕自身、その火の玉をはっきり見る事はなかった。
確かに、下校が遅くなった時に、夕暮れの土手から、暗い湖面を
見下ろすと、真ん中あたりに、薄ぼんやりと白い霧のようなものが
見えた気がしたことはあったけど、はっきりとは確認していない。
やっぱり、それを見つめることは、怖くてできなかった。

643 名前:さくら池(2/2) 投稿日:04/06/28 01:45 ID:33szBuz/
ある朝、同じクラスで同じ棟の五階にに住むシゲルをさそうと、
シゲルのかあさんが、彼は具合が悪くて学校を休むからと言った。
放課後、シゲルに宿題のプリントを届けると、共働きだったので、
シゲル本人が、ドアに姿を現した。目が血走っていた。
とても具合が悪そうに見えたので、僕はすぐに帰ろうとしたが、
シゲルに引き止められた。彼のベットに並んで腰をおろし、
シゲルの話を聞いた。夕べから、眠っていないこと。そして、
シゲルは、さくら池の火の玉を見つめてしまったらしいこと。
すると、薄ぼんやりした火の玉が、はっきりと形をとりはじめ、
ドッジボール大の球形の発光体になって、甲高い金属音を
させつつ、シゲルに向かって飛んで来たらしい。
足がすくんで逃げられないシゲルの、1メートルほど前方に、
空中静止した火の玉は、白い光を放ちつつ、実は透明な物体で、
そして、その中に、気味悪く痩せた小人が、しゃがんでいた。
さらに目の前に近づくと、その小人が立ち上がり、シゲルむかって
切れ目だけの口をしきりに動かし、何かを語りかけてきたという。
しかし、周りに響くのは、例の聞いた事も無い金属音だけで、
そいつの声は聞き取れず、しばらくして火の玉は池の対岸の方まで
飛んで行き、ようやく見えなくなったという。
シゲルは怯えて、最後に「どこにも行きたくない」といった。
僕も心底恐ろしくなり、シゲルのかあさんが帰って来たのを
いいことに、そそくさと、シゲルの家を立ち去った。

それから、二週間もしないうちに、シゲルの家族がいなくなった。
学校では急な家庭の事情で済まされた。団地では、たぶん夜逃げだ
ということで落ち着いた。奇妙な事があった。当の夜逃げした夜、
シゲルのかあさんが、団地のベランダから外に向かって、
シゲルの名前を何回も呼ぶ声を聞いた人が、たくさんいた事だ。
僕は、それ以来、さくら池には近づいていない。

 - Part 76, 洒落怖