洒落怖超まとめ

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とうもろこし

   

30 トウモロコシ 1/4 sage 2005/07/19(火) 08:32:53 ID:9ogbgzgl0
トウモロコシが食卓に上る季節になると
我が家では必ず語られる話。

今では70歳近い母親が、小4のときに体験した話だ。

ひとりっ子の母は、当時、母の祖母・両親と一緒に田舎で暮らしていた。
そこは小さな村落で、近隣どうしは家庭の内情などにもよく通じていた。

  母の両親は村に珍しく共働きで、GHQの通訳と教師をしていた。
  母の祖母は80歳を超える年齢ながら畑を作り、家の留守をみていた。

お隣さんは裕福な農家で、子供が何人もいた。
その中に、生まれつき脚の悪い男性がいた。

脚のせいで農作業ができないといえ、思考はむしろ明晰で
親兄弟に気兼ねしながら、人目を忍んで離れで暮らす姿を
母の家族は隣家としてよく知っていた。

31 トウモロコシ 2/4 sage 2005/07/19(火) 08:33:40 ID:9ogbgzgl0
その彼が、いい青年になった年頃に、鉄道自殺した。

  家業の役に立てず、養われる他ない身の上を悲観したのだろう。
  噂に聞けば、彼はずっと家族から邪険な扱いを受けていたらしい。

  母の家族にも心当たりがあった。
  彼が昼時、不出来な野菜を持ってかまどを借りに来ることがあった。
  (つまり自分の昼ごはんの材料を持ってきて、調理していくのだ)

  母の家としても「ろくに食べさせてもらっていないのでは」と心配し
  快くかまどを貸して、うちの野菜をふるまうこともあったようだ。

事件の日は、小さな村落で起きた一大事に、みんな大騒ぎだった。

現場の対応、通夜や葬式の段取り…。大人たちは総出で事にあたった。
母の両親もそれぞれ勤めから戻り、村の手伝いへと取って返した。

凄惨な現場には誰も身元確認に行けず、母の父親が名乗り出た。
母の母親は夕食が遅くなるからと、トウモロコシを茹でて置いていった。
小学生の母は祖母とふたり、午後から夕食時を過ぎるまで留守番をした。

32 トウモロコシ 3/4 sage 2005/07/19(火) 08:34:13 ID:9ogbgzgl0
その間に、不思議なことが起こった。祖母のようすがおかしいのだ。

祖母が、大皿に山と盛られたトウモロコシをむさぼるように食べる。
おいしい、おいしいと、結局ひとりでほとんど平らげてしまった。

  ふだん祖母はトウモロコシを食べるとき
  歯が悪いからと一粒ずつ、つまんで食べていた。
  それもせいぜい年寄りの食べる量だ。

また周囲を珍しそうに見渡し、孫である母に素っ頓狂なことを尋ねる。
祖母自身が選り分け、印をしておいた種ナス(次の年に使う種)を
これは何か、どうして印をしてあるのか、などと何度も尋ねる。

ふだんのしっかり者の祖母からは、ほど遠い。

母は子供心にも何かおかしいと感じ、気味が悪くなって
祖母に訴えるのだが、当人はきょとんとして、まるで要領を得ない。

帰ってきた父親に事情を話すと、父親はすぐ何かを察した。
そして、自分の母親である祖母を一喝。

33 トウモロコシ 4/4 sage 2005/07/19(火) 08:36:11 ID:9ogbgzgl0
「ばあさん! 変なものに取り憑かれよっては、いかんよ!!」

しばらくして祖母はわれに返ったが、トウモロコシのことや
孫(母)に質問を繰り返したことなどは覚えていなかった。

  また、後でわかったことだが、祖母はいつも首から下げていた
  お守りを、偶然この日は忘れて、身につけていなかった。

  祖母はその後も長生きして、92歳で大往生した。

母の祖母の異変が、隣家の彼の死と関係があるかどうかはわからない。

「せめて最期に、腹いっぱい食べたかったのかもしれないね」
と、うちの家族では言い合っている。

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