洒落怖超まとめ

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まりつき

   

530 名前:ちーちゃん 投稿日:02/07/26 11:14
 少し長いですが、お付き合い下さい。

今から20数年前の話です。場所は東京都下H市。
当時、私は中学1年、大きな幹線道路から少し入った
所に住んでました。家の前には幅4~5mの小さな道路。
舗装こそされてはいましたが、車も滅多に通らない
文字通りの静かな住宅街でした。

家の前、通りを挟んで向かい側に木造のアパートが在り、
そこに、千里ちゃんという4つか5つ位の女の子がいたんです。
千里ちゃんは、とても色の白い、黒眼勝ちな瞳のぱっちりした
可愛い子で、皆に「ちーちゃん」と呼ばれていてました。
詳しい事情は知らないのですが、ちーちゃんの家は母子家庭
で、お母さんは幹線道路沿いのヤマ○キパンの工場で働いて
いました。近所に同年代の子供が居なかったのか、ちーちゃんは
よく独りで遊んでいました。縄跳びしたり、蝋石でアスファルトに
絵を描いたり。マリ撞きの上手な子で、ピンク色のゴムマリを
撞く音がリズム良く、ポンッ!ポンッ!ポンッ!ポンッ!って
延々、聞こえ続けるなんて事もありました。

(つづく)

531 名前:ちーちゃん 投稿日:02/07/26 11:16
 兄弟の居なかった私は、そんなちーちゃんを妹の様に
思い、たまに遊び相手をしてあげたりしてました。と言っても
中学生と幼児ですから、一緒に絵を描いたり、絵本を読んで
あげたり、駄菓子屋さんでアイスを買ってあげたりするくらい
でしたけどね。断っておきますが、私は炉梨趣味は有りません。
むしろ、ちーちゃんのお母さん、今思えば、20代後半くらいで
とても綺麗な人でした。長い黒髪を無造作に後ろで束ねて、
化粧ッ気も無く、清楚な優しい感じの女性で、年上の女性に憧れがちな
年頃の私は、「いつも遊んでもらって、すみません。」と笑顔で
言われると『萌えぇ~~~っ!!』(笑)だった訳です。
ちーちゃんも私の事を「お兄ちゃん」と呼んで懐いてくれていて、
通りに面した私の部屋で暇そうに、ちーちゃんの様子を眺めていたり
していると「お兄ちゃ~ん、遊ぼぅ~!」って・・・。

あの日は、ちょうど今と同じ位の季節。夏休みに入って間もなくの、
とても暑い日でした。
私は朝から宿題をするつもりで机に座っていたのですが、あの頃は
各家庭にエアコンなど望むべくも無く、暑さにグゥ~ッタリしていると、
いつもの様に「お兄ちゃ~ん、遊ぼぅ~!」と、赤いリボンの麦藁帽子
を被ったちーちゃん。宿題は午後から図書館でも行けば良いやって事で
相手をしてあげる事にしました。
お絵描きやら、マリ撞きやら、ひとしきり遊んで、ふと時計を見ると
12時半を過ぎていました。いつもなら、ちーちゃんのお母さんは、
お昼前には一旦帰って来て、ちーちゃんと一緒にお昼ご飯を食べて、
また午後の仕事に戻るはずでした。
私もお腹が空いてきましたし、そういえば昨日父親が珍しくパチンコで
勝ったとかで持って帰ったチョコレートとかのお菓子が有ったなと思い、
ちーちゃんに「ちょっと待っててね。」と言い、家に取りに入った時です。

(つづく)

532 名前:ちーちゃん 投稿日:02/07/26 11:17
「千里~!遅くなってゴメンねぇ~」
通りの向こうに、お母さんの白いワンピース姿が見えました。
「アッ、お母さんだ!!」
ちーちゃんは言うが早いか飛び出して・・・。

キキキキキィィィィーーーーーーーーーッ!! ガンッ!

その日、幹線道路で工事をしていたため、渋滞を嫌って
裏道を抜けようとしたトラックでした。

キャァァァーーーーーーー、千里、千里ぉーーっ!

私は靴も履かずに表へ出て駆け寄りました。
トラックの二つの後輪に頭を突っ込むように倒れている
ちーちゃんが居ました。小さな手足が、時々ピクッピクッっと
痙攣するように動き、タイヤの下には赤黒いシミが広がって
行きました。お母さんは、私に気付くと両肩にしがみつき
「なんとかしてぇ~~っ!なんとかしてくださぁ~いぃ!!」
揺すりながら泣き叫びました。その時のお母さんの顔は
一生忘れないでしょう。いつも微笑みを湛えた優しい顔は
夜叉の様になっていました。
お母さんは、呆然と立ちつくす私から手を放すと、倒れたままの
ちーちゃんを抱き締め、車の下から引っ張りだそうとしました。

・・・・・ブチッ・・・ンッ!・・・・・・・。

(つづく)

533 名前:ちーちゃん 投稿日:02/07/26 11:18
お通夜、お葬式、両方とも参列しました。
お母さんは一気に20歳くらい歳をとったかのように老け込み、
お悔やみの言葉にもウツロな眼で力無く頷くだけでした。
あの日、いつもの時間にお母さんが帰って来ていたら・・・。
あの日、幹線道路が道路工事なんかしていなければ・・・。
あの日、私の家側でなくアパート側で遊んでいれば・・・。
いくら悔やんだって、ちーちゃんは帰っては来ません。

それから、しばらくたった蒸し暑い夜の事です。
寝苦しさに目を覚ました、その時です。身体が動かせない事に
気付きました。『ああ、これが金縛りか。』そんな事を考えていると
網戸だけ閉めた窓の外でマリを撞いているような音が・・・。

ポンッ!・・・ポンッ!・ポンッ!・・ポンッ!・・・ポンッ!・・・

『何か変だな?』妙な違和感を感じていました。そのうち、音が移動した
様に感じました。今度は明らかに部屋の中で聞こえています。
ベッドでなく畳の上に布団を敷いて寝ていたのですが、その足下辺り
から聞こえてきます。

ポンッ!・ポンッ!・・・・ポンッ!・ポンッ!・・・ポンッ!・・・

不思議と怖さは感じませんでした。『ちーちゃんがお別れを言いに来たんだな。』
そんな風に思ったんです。その時、ずっと感じてた妙な違和感の正体が
解りました。マリの弾む音がリズミカルじゃないんです。
あんなに上手だったのに・・・。

ポンッ!・ポンッ!・・ポンッ!・・ポンッ!・・コロッ・・コロコロコロ・・

失敗しちゃったみたいです。足下で撞いていたマリが顔の横まで
転がってくるのが解りました。取ってあげようとしたのですが
相変わらず金縛りで動けません。その時、転がってきたモノが・・・。

「お兄ちゃ~ん、遊ぼぅ~!」って・・・。

(終わりです)

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