洒落怖超まとめ

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ゆきは・・

   

533 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/03/27 04:07
この話は誰にも話したことがありません。
こうした掲示板だからこそ話せるというか・・・
長くなりますがとにかく聞いてください。

私は大学最後の夏にサークル仲間と伊豆大島にいきました。
仲間の一人の実家が民宿をやっているのでそのツテです。
初日二日と王の浜や弘法浜で泳ぎまくったあと、三日めは
三原山をメインに島の観光スポットを回りました。
その夜のことです。
相当疲れていましたが、怪談話大会をすることになりました。
中心はもちろん地元のUです。
U含め6人で借りている大部屋に車座にすわり、午後10時過
ぎくらいから始めましたが、12時を回るころにはUの話に引
き込まれっぱなしでした。
地元ネタというのははっきりいってズルい。
「ある人がトイレに入っていると・・・」
などという怪談は誰にでも当てはまる話とはいえ、その分
パンチ力に欠ける。
それに対して今来ている島の怪談なんて、俄然雰囲気が違い
ます。

534 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/03/27 04:08
そんなわけでゾクゾクしながらUの話を聞いていると、ひと
区切りついたところで「スイカでも食べてて」とUは中座し
ました。
30分くらいしてから半紙を持って帰ってくると、
「次の話はマジやばいぞ」
と言って、明かりを消してから机の上に置いた半紙を懐中電灯
で照らしました。
「この話はな、昔からこのあたりでは口に出したらだめだと
言われててな、こうして紙に書きながら進めるのよ。
めんどいからいっぺんに書いてきた」
これはほんまもんだと、直感しました。
しかし6人で囲むと逆さから読む人間がいるので、「読みにくい」
ということになり、「いいから口で話してよ」と一人が言いました。
「いや、マジやばいんだって」
というUをなだめすかして、怖いもの見たさで喋ってもらうこと
になりました。
私はちょっとビビりの方なので、正直逃げたかった。

「責任持たんからな」と言ってUはポツポツと語り始めました。

535 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/03/27 04:09
「昔この島の北の漁港のあたりにな、ゆきっていう名前の
娘が住んでたんだと。父親は漁師で、母親はゆきが小さい頃に
海で溺れ死んでいた。
ゆきは飴売りをしながら父の仕事も手伝う働きものだったが、
18の歳に重い胸の病にかかってしまった。
医者に助からないと言われ、嫁入り間近だったゆきは一方的に
破談されて、ついに発狂してしまった」
「ちょいまって、それいつの話?」
と誰かが口を挟みました。
「さあ、たしか明治に入っての話だったかな。
とにかく、発狂したゆきは一日中わけのわからないことを
ぶつぶついいながら歩き回るようになった。
哀れに思っていた周囲の人々も次第に気味がわるくなって
父親にあたるようになった。
父と子の二人暮しでは漁に出ている間は面倒を見てやれない。
療養所にいれる金もない。父親も途方にくれた。
そんなある日の晩、ゆきは姿を消した」

536 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/03/27 04:10
「次の日、漁師仲間が前の晩に父の船に乗って海に出て行くゆき
を見たと言う。
『月の明るい晩じゃったけ、横顔がはっきり見えたよ』
なぜ止めてくれんなんだ、と言う父に漁師仲間は
『もうひとり乗っとったが、あれはお前さんじゃなかったのか』
騒然となり、漁師仲間も手伝って探すことになった。
やがて漁に出ていた仲間の知らせで、沖の方でゆきの乗った船が
見つかったという。
曳航されてきた船にはゆきの変わり果てた姿が転がっていた。
ゆきは一人であったが、おそらくゆきを連れ出した誰かがやった
のだろうと言われた。
その者は、ゆきと心中しようと沖に出たのか、あるいは争って
海に落ちたかのか。いずれにせよ生きてはいまい。
そんな所に話は落ち着いたが、内心誰もが思っていた。
『人の仕業ではない』と。
ゆきの首は捥がれていた。
・・・・それ以来yきはyきhわたしはhhじゃのいうとおり
hhじゃのまつうなばらへ出た。凪いだうみに手がのぼってきた。
とてもとても深いうみぞこからの白い手が幾ほんものぼって
きた・・・」

537 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/03/27 04:11
私たちは動けなかった。声も出せなかった。
Uの声ではなかった。
転がった懐中電灯が、窓を照らしていたが誰もそちらを
みなかった。
Uが喋っているような、しかし別のどことも言えないような
ところから聞こえてくるようでもありました。
そこから先は子音が連なっているような音が聞こえるだけで
内容が聞き取れませんでいた。
しかし最後にはっきりとこう聞こえた。
「富士の影がきれいで」
その声に反応したように一人がUの肩を激しく揺すりました。
どう考えても途中から怪談の続きとしては文脈がおかしかった。
私も半泣きになりながらUを揺すりました。
Uはすぐに正気にもどったようでしたが、やたらと「眠い」
を連発して気を失うように眠ってしまいました。
私たちは顔を見合わせて、なんとなく気まずく怪談大会を
お開きにしました。
どうしても気になって寝る前にUが用意していた半紙の最後
のくだりを見ると
「それ以来ゆきはこの話をする人間の元に、」
ここまで読んで私は半紙を破りました。

538 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/03/27 04:12
翌朝Uは昨日のことを覚えてないと言いました。
「うっそー。俺あれ話したんかー?」
「いや、まあいいよどうでも」
蒸し返すのも後味がわるくて、私たちはもう何も言いませんで
した。
しかしこれだけはなぜか気になっていたので帰る前に、
「富士の影って何」と聞くと、
「富士山の影? それがなに?」
「いや、なんでもない」
なんとなくUには聞きづらいので、お世話になったUの親に
こっそり聞きました。
「ああ、満月の夜なんかにはまれに見えるよ。明るくて空気が
澄んでて海面の温度とかの条件が合ったら夜中でも、ここから」

539 名前: おわりです 04/03/27 04:13
その出来事以来この話は誰にも話していません。
口に出すのがどうしても、もう生理的にだめです。
あの時のUの声が頭にこびりついているようで。
一昨年私の祖父が死んだ時、通夜で仏さまのそばで寝ていると
夜中にその祖父の声を聞いた気がします。
その声を聞いて何かがわかった気がしました。

あの時のUの声が女性の声だったら、たぶん私たちはすぐに
パニックになってUを叩いて揺すったでしょう。
Uの声は、祖父の声のように、女性とも男性とも我々が直感
しない、死者の声でした。

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