洒落怖超まとめ

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エレベーター

   

688エレベータ(1/3) sage 2010/06/06(日) 09:46:37 ID:14aPT6K90

講義と講義の間に隙間に出きた、退屈な時間。
100分近い暇を潰すために、自分はそこに足を運ぶ。

キャンパスの中心から離れ、端の方に位置する旧クラブ棟。
実績のない、もしくはメンバーの少ないサークル達の拠点の一角。
1階奥の暗く寂しい場所にそれはあった。
自分がドアを開けると彼はいつもそこにいた。
自分は黙って席に座り、彼はそれを確認したら口を開く。
彼から振られない限り、自分は黙って彼の言葉に耳を傾ける。
それだけで、この隙間は1日でもっとも充実した時間へと変貌する。

「君はエレベーターに乗ったことはあるかい?」
彼の出だしはいつも唐突だ。
「乗ったことがないやつがこの日本にいるなら逆に見てみたいもんだね」
僕は乗ったことがないんだけどなぁ。ありえないような話だが、彼ならもしかすると思ってしまう。
そんな不思議な俗世離れした雰囲気が彼にはあった。

--これは、ちょうど4、5年くらい前の話になるかな。
ここからそう遠くない町で、新築のマンションが1軒出来上がった。
曰くつきの土地とか、そんな噂は一切ない潔癖なものさ。
ところが入居者がチラホラと入り始めてからさして立たないうちに、ある噂が立つようになった。
「エレベーターが一人でに動いている」
昼夜問わず、誰がのっているわけでもないのに、1階から最上階の9階へ、何度も何度もエレベータが行き来をしているという。
最初は子供のいたずらかと思ったが、住人の誰もそうした子供を見ておらず、
かといってただエレベータが上下しているだけで、カメラを置いて検証だとか、管理会社にというわけにもいかず、いつしか
住人達は意図してエレベータを避けるようになっていた。

689エレベータ(2/3) sage 2010/06/06(日) 09:48:47 ID:14aPT6K90

そんなある日、9階に住む一人暮らしの男性が深夜帰宅をしようしたときのことだ。
その日飲み会があって、覚束無い足取りで戻ってきた男性にとって、ここから9階まで階段を上るのは億劫だ。
エレベータに妙な噂が立っているのは聞いていたし、それ故に階段を使用していたわけだが、今まで別にそこで幽霊を見た、とかそんな話を聞いたこともない。
今日ばかりはと男性はエレベータのボタンに手をかけた

4階・・・3階・・・2階・・・1階・・・
チンという音と共に扉が開く。
誰もいない。当たり前だ。
「幽霊だのいるわけないじゃないか」
噂話を信じてわざわざ階段を使っていた自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。
だが、すぐにそんな考えは吹き飛んだ。
上へ、上へと昇り初め、2階のフロアがドア越しに映った時のことだ。
フロアの一番奥に、一人女性が佇む姿が見えた。何やら首をダランと下ろしブラブラと手を左右に揺らしている。
まるで幽霊のようだ。今日は飲みすぎたかなぁ・・・
と思った束の間、3階に差し掛かるとまた、先ほどの女性が見える。
「え?」
そんな言葉を発している間にもエレベータは昇ってゆく。
4階、5階・・・
上がれば上がるほど、その女性は段々とこちらに迫って来ているのだ。
「嘘だろ!?なんだよあれ!!」
酒の酔いなどすっかり醒め、半狂乱になった男性は叫んだ。
すぐに降りようか?それとも最後まで乗るべきか?
そんな考えを貼りめぐらしている間にも、男性の乗ったエレベータは止まることなく昇っていく
(誰か、誰か出てきてくれ!)
どこかの住人が廊下にいることを期待するが、それも虚しく、女性はどんどん近付いてくる
7階・・・8階・・・・
もう目と鼻の先にまでそれは来ている。

真っ黒い、服も肌も髪もただただ真っ黒な女性が、項垂れ立っている。
髪に隠れたその下には何があるのか・・・
嫌な想像だけが脳裏を駆け巡る。


690エレベータ(3/3) sage 2010/06/06(日) 09:53:30 ID:14aPT6K90

9階

きっとドアの目の前にやつはいるに違いない。
今日でガクガクを震える男性を待っていたのは誰もいない。いつもの廊下の風景だった。

「良かった。何もなかった・・・」
ホッ安堵が過ぎり、胸を撫で下ろす。
だがそれもほんのつかの間のことだった。

・・・・・・
おかしい。
いつまで経ってもドアが開かない。
そのときようやく彼は気づいた。
ガラス越しにウッスラと映る、自分の背後に立っている女性の姿を--


「その後、その男性はどうなったのさ?」
「翌日、出社して来なかった男性を心配して様子を見に来た同僚に発見されたよ。
 エレベータの中で蹲っているところを、ね。」
虚空を見つめていた彼の視線が、ふとこちらに移る。
「君は、男性が見たものは真実だと思うかい?それは幽霊だった、と。」
そもそもこの話が作り話か、それとも実話なのかから始めてして欲しいと思った。
ただ、もし実話だというなら、幽霊だと・・・
「長い黒髪の女性。大体怪談話の幽霊の6割近くはそういう外見をしている。
 白のワンピースを来てるとか、そういうのも定番だな。
 ハゲた叔父さんとか、神経質なおばさんとか、もっといろいろタイプがあっていいと思わないかい?」
そう言われれば、そうかもしれない。シチュエーションによっては、戦時中の兵隊だったり、ナースだったり
その場にゆかりのある『定番』となった幽霊の話は多い。
「僕は幽霊の話を聞くときには、長い髪の女性が出てくるものはまず作り話だと一蹴することにしてる。
 わざわざ話に取り上げたりもしない。
 でも、今日僕がどうしてこの話を君に聞かせたか分かるかい?」
分からない。素直にそう答えた。

691エレベータ(3/3)+1 sage 2010/06/06(日) 09:59:05 ID:14aPT6K90

「この話の出所となったアパートは、ここから電車で30分くらいの場所でね。
 興味本位にいろいろ調べてみたのさ。
 でも、アパートになる前は、その土地は何年も更地。
 近隣にも自殺した、とか殺人事件がなんて話も聞かない。
 そもそも、男性がこの体験をするまで、エレベータが勝手に動く。
 という噂はあっても、件の女性の話は全くなかったんだ。」
「全然?」
「ああ、全くさ。
 そしてこの男性の後も、最初は多少アパートで不審な女性を~
 みたいな話はあったみたいだが、結局今ではエレベータそのものの噂はあっても
 女性を見たという話は聞かなくなった。」
・・・
「僕は思うんだ。
 長い髪の女性というのは、裏を返せばそういう存在に多くの人は、恐怖や不気味さを感じる。
 男性が見たものが、本物の幽霊だったのか、それとも男性の夢だったのか、はたまた『誰か』が彼にそれを見せたのか・・・
 いずれにしても、人が恐怖を抱くものは、例え現実でなくとも突きつけられると恐ろしいものなんだろうね。」

男性は、今は会社を辞め精神病棟の一室にいる。
閉所恐怖症、というよりも密室が怖くて怖くてたまらないらしく、彼の部屋のドアはいつも開いているそうだ。

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