洒落怖超まとめ

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ドトール

   

791ドトール sage New! 2009/02/10(火) 12:31:52 ID:vfY8Yr9w0

あまり怖くないかも知れないけど。知人の話を書き起こしたものです。

昨日初めて霊を見た。
と言うより、「これは霊だ」と認識した状態で、霊を見たのは初めてだった。
私は半年ほど前から某SCのテナントでバイトをしているんだけど、そこの社員食堂には
喫煙室が無いので休憩は一階のドトールと決めていた。週に3~4回決まった時間に
通っていれば店員とも親しくなるし、同じ常連の顔も何となくだが憶えてくる。そんな時、
私が喫煙席に座ると必ず居る人物に、ふと気づいた。その人は服装も髪も雰囲気も
何となく黒っぽく、俯いているため顔立ちはおろか年齢も分からない人だった。
影が薄いって言うより、そいつの存在自体薄くて……ファミレス行ったら注文とか
絶対忘れられるんだろうな、と思わせるような奴。そいつはいつも何も置いてない
テーブルでぼーっとしていた。今から考えるとおかしな話なんだけど、私はオカルト話は
大好きでも本当に霊感がなく霊の存在もどちらかと言えば否定的なタイプだったので、
そいつが「何者」かなどと、考えた事もなかった。(コーヒーもお冷やも持ってこないで
何してるんだ、待ち合わせかな?変な奴)とちらっと思っただけで。
まあドトールは客同士で喋るような店じゃないし、そいつが男か女すらも知らなかったが、
20分の休憩時間は貴重なのでタバコを吸ったり携帯で2ちゃんするのに忙しく、
そいつや周りの事を観察した事もなかった。

792ドトール sage New! 2009/02/10(火) 12:33:00 ID:vfY8Yr9w0

で、一ヶ月くらい前の話。
その日は昼下がりにしては珍しくドトールは混んでいた。いつものようにタバコだけ
置いてから注文をしようと喫煙席に入ると、喫煙席は満室だった。隅の方に
いつものように何もないデーブルの前でぼーっとしてる黒っぽい奴を見て
(何もしないのならさっさと帰れよ)と思ったが、まあ席は早い者順なので仕方なしに
禁煙席に座り休憩時間を過ごした。 帰り際、仲良くなった店員の子に
「今日混んでるね、喫煙席満席だったからタバコ吸えなかった」
と声をかけると、その子はきょとんとした顔で
「え?私さっき行ったけど一つだけ開いてなかったっけ?席移ればいいのに、って
言おうとしてたんだけど」
「あれ?そうだった?ずっと満席だった筈だけどな」
変な話、と思ったが私かその子が見間違えたんだろうと、気にも留めなかった。
と言うか、実は昨日までそんな事も忘れていた。

793ドトール sage New! 2009/02/10(火) 12:36:06 ID:vfY8Yr9w0

そして、昨日。
昨日もドトールは混んでいて、喫煙席は満席だった。でも、その黒っぽい奴は1人で
4人掛けのテーブル(そこのド○ールのテーブルは全部2人用か1人用で、人数が多い時の
ために1つ2つくらいは小さなテーブルをくっつけてある。黒っぽい奴は
1人で4人用の席に座っていた)のシート側に座っていたので「ラッキー」と思い
そいつの傍まで歩いていった。
「すいませーん、今満席なんでテーブル半分借りちゃって良いですか?」
黒っぽい奴は何も答えなかったが、かすかに頷いた気がした。気を良くした私は
「あざーっす」
と、テーブルを壁際に動かしタバコを座席に投げると注文を取りに行った。
コーヒーと灰皿を手に戻ると、ふと隣の変な奴の事が気になったので、わざと
そいつの隣のシートに座る。タバコに火をつけながら、横目でその黒っぽい奴を
ちらりと見た。そうやって、意識してそいつを見たのはこの半年で初めてだった。
黒っぽい奴は暑いくらい暖房の効いた店内で膝の下くらいまである長い
チャコールグレイのコートを着て、深緑色のニット帽を目深に被っていた。
俯いているため表情は分からないが、服装や雰囲気から年輩のおっさんみたいだった。
でも、何よりおかしいのは、そいつの持つ影。なんと言っていいのか……普通だったら、
照明に当たってる部分は明るく、影になる部分は暗くなるはず。でも、そいつにだけ
光が当たっていないように全身が影がかかっていた。まるで、薄い墨で
そいつの周りだけを一捌けしたような、輪郭がはっきりしない影絵のような、
そんな感じだった。

794ドトール sage New! 2009/02/10(火) 12:40:10 ID:vfY8Yr9w0

おかしな奴だな、と思いながらコーヒーを口に運んだその時、1人のおばちゃんが
こちらに歩いてきた。おばちゃんは黒っぽい奴のテーブルにコーヒーを置くと、
そいつの向かいにどしんと座った。(なーんだ、このおっさん待ち合わせだったのか)
と1人納得し携帯を手にしようとした時、奇妙な事に気がついた。そのおばちゃんは
飲み物を一つしか持ってきていない。そして、そのおっさんに声をかける事もなく
完全に無視してカバンから文庫本やらタバコを取り出している。(あれ?知り合いじゃない
のか。じゃあ相席?いや相席するにしても一言くらいは声かけるだろjk……)と、
私が首を傾げているとそのおばちゃんは立ち上がり、用の済んだカバンを
黒っぽい奴が座っているシートに放り投げた。うわ~痛そう、と思いながら
カバンを投げつけられたおっさんの膝を見ると、そいつの膝は……いつのまにか
透けていて、カバンだけがあった。あり得ない光景に、私の頭は混乱する。
(えっ?あれ、おかしい、おかしいよ!なんだコレ!?何で体が透けてるんだ?
まさかまさか……)
その時、カバンを投げつけられても無反応だった黒っぽい奴が、ゆっくりと
顔を上げてこちらを向いた。やっぱりおっさんだ。肝臓でも壊してるのかと思うくらい、
皮膚が赤黒い。そのおっさんは唇の端を上げ、黄色い歯をむき出して笑った。
「気づくのが遅いんだよ」
小さくて低い声だけど、頭に直接響いてくる声。それを聞いた時に私はやっと、
全てを理解した。私が、黒っぽい奴の正体に気付いていなかっただけだったのだ。
気付いてしまえば、そいつがいつ行っても同じ格好で同じ姿勢で喫煙席で座って
いるのもテーブルに何も置かれていないのも一ヶ月前の話も全て説明が付く。
思い返すと、半年前は8月だった。40度近い真夏に暑苦しいコート着ている奴に
初めて会った時、私はどうして違和感を憶えなかったのか。そうだ、このおっさんは
人間じゃない。
「うわあああああああああああああっ!!!!」
店中の人が振り返るのも構わず、私は弾けるように立ち上がるとダッシュで逃げ出した。
そのおっさんが追いかけてきたらと思うと、怖くてとても振り向けなかった。

796ドトール sage New! 2009/02/10(火) 12:43:38 ID:vfY8Yr9w0

その後、上の空で仕事をこなした。帰り道でもまだ放心状態でぼーっとしていると、
携帯が鳴った。メールは、親しくなったドトールの子からだった。
「さっきはどうしたの?急に叫んで出ていったからびっくりしたよ」
震える指で、ずっと浮かんでいた疑問を返す。
「そんな事より、昼下がりにいつもいる黒っぽいお客さんって知ってる?
年輩の男の人で、長いチャコールグレーのコート着て緑色のニット帽
被ってるんだけど」
返信は、すでに予想がついていた。
「そんな人、見た事ないよ」
明日はバイト。
私は休憩時間のドトールで、またあのおっさんをみかけるのだろうか。

以上です。ちなみに、知人がそれ以降も黒っぽいおっさんを
見かけたかどうかはわかりません。

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