洒落怖超まとめ

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モンスター

   

187本当にあった怖い名無し New! 2008/01/10(木) 06:29:44 ID:BEsn3Q3y0

俺が田舎から大阪に出てきて、最初に入った会社が超ブラックだった。
平たく言うとデート商法ってやつで、地方の喪男・喪女達に色仕掛けをふまえながら安物を高値で売りつけるというもの。
うちの会社は主にダイヤとパールのリング、ネックレスなど。

・○○県で業者向けイベントやるんです
・その下調べでアンケート取ってるんですけど
・ところで君可愛いね(ここまで露骨ではないが口説いていく)
・うちは卸業者だから小売店を通さず直接買えば安くなる

とまあこんな風が吹けば桶屋が吹き飛ぶくらいの屁理屈で、実際には5万以下の商品を60~100万くらいで売ってた。
最初はそんな悪徳商法だとは気づかず、まさか求人誌にも「詐欺師募集」などと書いているはずもないので、
フツーに宝石類を売ってるんだと思った。だが上記の通りヘンテコなマニュアルを覚えさせられ、日々テレアポ。

そんな会社で働いていると、とんでもないモンスターが入社してきた。彼は俺の隣の席になった。それが不幸の始まりだった。

188187 New! 2008/01/10(木) 06:37:55 ID:BEsn3Q3y0

そのモンスターというのが身長180センチ、体重推定100キロ以上の元ボクサーで、
渡された名刺には金色の菊の門と何やら大仰な名前の団体……つまり、右翼893だった。
今でこそネットなどで右翼=在日みたいに書かれてるけど、当時はそんなことを知るはずもなく、
「野球の外野?」などと暢気なことを言っていたが、これだけ要素が揃っても距離を置かなかった俺にも問題があるかも知れない。

やたらと声がでかい。トンデモマニュアルもあっという間に覚え、隣で大音声でまくしたてるので、受話器の声が聞こえないくらい。
ご想像の通り、ジャイアニズム精神旺盛な奴で、俺は恰好のカモに見えたのだろう、いつの間にか「友達」ということになっていた。
毎日のように居酒屋や寿司屋やラーメン屋などに連れて行ってもらい、金は殆ど彼が出してくれた。
ああ、太っ腹だな、根はいい奴なのかも知れない……。
世間知らずだった俺は彼の手口にコロッと騙されていた。
こういう輩を友達と認識することはかなり危険だ。
あくまでモンスターとして接しなければ、たちまち食われてしまう。

192187 New! 2008/01/10(木) 06:43:57 ID:BEsn3Q3y0

「田舎のばあちゃんが倒れた。今すぐ行かなきゃならない。金貸してくれ」
こんなことを職場のほぼ全員に触れ回っていた。
さすが大阪の悪徳業者だけあって誰も聞く耳持たない。そこで奴は俺に目をつけた。
当然だったかも知れない。世間知らずの田舎者で気弱そうで断れない性格……これでカモられない訳がない。
「ばあちゃん倒れてん。頼む金貸してくれ」
「いや、今俺金ないし」
「マジで行かなあかんねん。今から銀行連れてったるわ」
こんな具合に、無理矢理車に乗せて銀行の前までくる。相手は巨漢の元ボクサーで右翼893である。
「でもほんとに俺金ないから」
「早よ下ろしてきてや」
もう何と言うか、自分が今金を巻き上げているという罪悪感が微塵も感じられないのだ。
これがやくざの手口かなどと思いながら、4万くらい下ろして彼に貸した。
返ってくるとは到底思えなかったが、相手はモンスターだ。下手なことを言ったら治療費の方が高く付くかも知れない。
だが奴の横暴はまだまだこれだけでは終らなかった。

196187 New! 2008/01/10(木) 06:49:35 ID:BEsn3Q3y0

当時俺は会社の寮に住んでいた。口下手なためさっぱり売り上げが上がらず辞めることにした。
当然寮は出なければならないだろう。そう思っていると、奴が「そんならうち住んだらええやん」という。
奴は倉庫の2階を改造して彼女と同棲していた。そんなところにお邪魔するのも悪いと思ったのだが、
奴の強引な口調に負けて、とりあえずそこに泊まった。

後日社長に退社の旨を伝えると、「お前は大阪出てきて行くとこあれへんのやし、そのまま住んでもええで」とのことだった。
住むところの心配など全くする必要はなかったのだ。だがこれもまた後の災いの元となるなんて思いもしなかった。

奴が地方の客に惚れて、その女の子が大阪に遊びにくるという。当然彼女にバレるとまずい。
だからお前の部屋を貸してくれというのだ。

199187 New! 2008/01/10(木) 06:53:43 ID:BEsn3Q3y0

何度も繰り返すが奴は巨漢のボクサーで右翼でやくざである。化け物である。
こっちは170cmの57kg、かなうはずがない。渋々奴に鍵を渡した。
そして奴は女と遊び呆けている間、俺は奴の倉庫でなぜか奴の彼女と一緒に過ごした。
もちろん何もしていない。出来るはずがない。やったら殺される。

そんなこんなで女の子も帰り、俺は元の部屋に戻った。鍵だけがなぜか奴の手元にある。
返そうともしないしそれどころか人の部屋に堂々と鍵を使って入ってくる。

200187 New! 2008/01/10(木) 07:02:06 ID:BEsn3Q3y0

公私混同、自分と他人との垣根がない、お前のものは俺のもの……。
そんな特徴がまるでかの国の人そのものだが、当時はそんな知識などなかった。
とにかく、鍵を返してもらわなければならない。
こんな当たり前なことが難しかった。当時出来た彼女に鍵を渡すから返して欲しい、そう言うことにした。
だが奴は「じゃああとで合鍵作ってや」という。もう訳が分からない。なぜ合鍵を作る必要がある?
「やっぱりこんな風に合鍵持ってると、何かとトラブルの元になるし」
「なんでトラブルになんねん。お前人を泥棒扱いするんか! 今まで誰の金で飲み食いしてきてん」
俺は唖然とした。第一お前最初に俺から金ふんだくっただろと。
軒を貸して母屋を取られる、まさにそれだった。そこからはファビョる一方で話など通じない。
携帯で怒鳴り散らしながらマンションのオートロックをすり抜ける。
あれほど無意味な防犯設備もないのではないか。誰かが入室するのを待っていればあっさりと入れるのだから。
そして怒り頂点に達したモンスターがドア一枚隔てた向こうにいる。
「早よ開けろや。何してんねん。こんなドア壊そう思ったらなんぼでも壊せんねんで」
まるで借金の取り立てみたいな勢いでドアを蹴りまくる。奴ならほんとに破壊しかねないと思った。
「うるさいで。喧嘩なら外でやってや」隣の部屋のおっさんが言う。
「すんません。すぐ済みますから」奴がすっとぼけた声で言うと再びドアを蹴る。蹴りまくる。
渋々チェーンをかけてドアを開けた。
「何やねん。チェーン外せや。引き千切るぞ」

201187 New! 2008/01/10(木) 07:09:28 ID:BEsn3Q3y0

他人から見ればなんて臆病な奴だと思うかも知れない。
だがあの手の輩は実際目の当たりにしないと怖さが分からない。
今にも人を殺しそうな剣幕に負けて俺はチェーンを外した。
今まで友達付き合いしてきたんだ、話せば分かってくれる……。
そんな甘っちょろいことを考えていた俺を、奴は部屋に入るなり殴り倒した。
「何調子こいてんねん。お前誰に物言うてんねん」
日本語で話しているのに全く話が通じない。向こうに会話する気がないのだから当然だ。
俺の顔はみるみる腫れ上がっていく。全身をバットで殴られたような鈍い痛みが包み込む。
まるで俺が悪者だった。
今までお前の面倒を見てやっただの何だのとやたら恩を着せてくる。
実際、部屋の中の金目の物とかなくなっていたのだが。
「お前なんぞ殺しても保釈金払ったらすぐに出て来れんねん」
本当に自分は今殺される。そう思った。
「お前に殺されるくらいなら自分で死んでやる」俺はタオルで自分の首を絞めた。
「ほう、ええ度胸やないか。早よ死ねや。何もたもたしてんねん。早よ死ねや」
これが、自分が散々吸い取った相手にかける言葉だろうか。こいつは悪魔だ。そう思った。

202187 New! 2008/01/10(木) 07:15:49 ID:BEsn3Q3y0

しばらくすると奴は笑い出した。「冗談や。冗談やて」
冗談という言葉の定義が、俺と彼とではだいぶ異なるようだ。俺の概念ではこういうのは脅迫という。
「お前が最近調子乗っ取ったからな、ちょっと懲らしめたろう思うてん」
調子に乗っているのはどちらであろうか。だんだんと殺意が湧いてきた。
キッチンには包丁がある。部屋にはギターがある。
こいつをメッタ刺しにして。あるいはギターで脳天を殴って。
沸々と沸き上がる殺意の中、親父の顔が浮かんだ。
病弱だった俺を夜中に何度も病院に連れて行ってくれた親父。
俺が今人殺しになったら、親父は失業する。それだけじゃない。「人殺しの親」というレッテルを貼られる。
それだけじゃない。我が子が人殺しになった、それはどれだけ辛いことだろう。
俺は結局耐えた。今すぐにでも殺してやりたい気持ちを抑えて、耐えた。
ウェーッハッハッハと高笑いする目の前のヒトモドキを見ながら、平常を装った。

それから俺は日雇いの土方仕事を始めた。少しでも体を鍛えておきたかったから。

ぜんぜんオカルトじゃないですね。すいません。

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