洒落怖超まとめ

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上京物語

   

429 名前:上京物語1 投稿日:03/04/29 18:09
良夫は今年、東京の大学に入学した。特に意味はない。〝東京がカッコイイ〟それだけの理由だった。「俺はこんな小さな町で終わる男じゃない」「都会が俺を待っている」
良夫の心はときめいていた。
本意ではなかったが、金もないので父の実家のある埼玉にとりあえず腰を落ち着けることにした。
「東京に行ってもがんばれよ!」みんな良夫との別れを惜しんでいた。
彼が最後に言った言葉は「おれは負けん!絶対に負けん!」その言葉であった。そして良夫は人ごみの中に消えていった。
万感の思いを乗せて、新幹線は静かに走り出した。彼の目には熱い涙が一粒、また一粒と流れだしていた。そして新しい自分を探すため、東京へ旅立っていった。

430 名前:上京物語2 投稿日:03/04/29 18:11
キャン、キャン、キャン。甲高い犬の声で良夫は目覚める。朝日が部屋にさしこみ彼はまぶしそうに目を細めながら、窓のそばに歩み寄り窓を開け2,3回深呼吸する。
そして顔を洗い食卓につく。みそ汁、卵焼き、焼き魚、ささやかな朝食を食べ始める。
その横にはおばあちゃんの"チワワ"が物欲しそうな目で見ている。良夫はしかたなく卵焼きを一つあたえると"チワワ"はしっぽを振りながらそれを食べる。彼は思った。(普段は触ると怒るくせにこんな時だけしっぽを振るあさましいやつ・・・だがこの性格は使える)
彼はこのとき初めて〝生きる〟ということを真近で体験したような気がした。
朝食が済み、部屋にもどると日課の朝の瞑想に入る。しかしこれがどれほどの効果があるかは定かではない、この時点でわかっていることは彼が暇だということであった。

そののち、良夫は本屋へ行き、アン、ジェイワン、フロームAなどのアルバイト雑誌を立ち読みしはじめる。一人暮らしをするためである。シティライフを満喫する、そして知り合った女と同棲。そんな甘い話があるわけがない。しかし、良夫の妄想は広がった。
彼の探す仕事は非常に贅沢だ。時給が高いこと、これは当然であるだろう。勤務地が近いこと、これも当然であるだろう。
しかし彼の要望はまだある。勤務時間が短いこと、休みが多いこと、疲れたときには簡単にサボれ、女が多いこと。こんなバイトがあるはずが無い。しかしこんなところだけはやたらとプライドが高い。
そして良夫はひとつのバイトを見つけだす。彼は面接に行くための写真を撮り、履歴書を書き電話をかけた。

431 名前:上京物語3 投稿日:03/04/29 18:11
彼が見つけたバイトはバーテンである。いかにも彼らしいといえるだろう、だが彼がバーテンなど知っている人間が見れば滑稽である。しかし彼はそんなことは気にしない。
そして面接に赴いたが結果はさんざんなものだった。良夫は接客商売は不向きと判断されたのであった。
彼のプライドは傷ついた。しかし彼の不屈の闘志はますます燃えあがった。
「いつか見ているがいい」良夫はそう思いながら空をあおぐ。思えば友達一人いない東京の空の下で彼は孤独感を隠すことができなかった。足元には冷たい風が吹いている。
「みんなはどうしているだろう」そして友達一人一人の顔を思い浮かべた。
そして彼は気づいた。
東京にもう一人友達がいることを。坂本君である。彼は高校卒業後、会社の研修で東京に来ているのである。良夫はなつかしい顔を思い浮かべながら、電話に走った。
だが誰も出なかった。
よく考えれば、研修できているのである。昼間に部屋にいるはずがなかった。良夫は奥歯をかみしめつつ、人生の無常さを知った。
夕方、良夫は部屋にこもり、長渕 剛の〝とんぼ〟を聴きながら瞑想にふけるのだった。
そして思うのだった。(いつか野望を達成させてやる)
「良夫~、ご飯よー」おばあちゃんの声が聞こえてくる。彼が食卓につくとやはりそばには〝チワワ〟が彼を見つめている。このとき良夫は思った。
生きるためには人を利用しなくてはならないと。生きるためには強くならなくてはと。
普段、やかましいだけの〝チワワ〟がこれほど勉強になるとは思ってもみなかった。
彼はそんなことを考えながら眠りにつくのだった。


433 名前:上京物語3 投稿日:03/04/29 18:16
朝いつものように〝チワワ〟の声で目覚めた。埼玉に来てから早、3ヶ月。アルバイトも決まり
なんとか生活のリズムをつかんできたが、心の穴をふさぐ事はできなかった。
彼がいつも楽しみにしてる故郷からの便りも、このところ途絶えてしまい良夫は〝友情〟とは何だろう?
そんなことを考え過ごしているせいか、食欲もない。
そして良夫は最後に思うことはいつも「俺は負けん、絶対に負けん」この言葉である。
彼の残したおかずはいつも〝チワワ〟が食べた。
そのとき彼は思った(人に気もしらないで自分の腹を満たすとはなんて犬だ・・・だが、この性格は使える。)
彼は自分の性格を変えるためならなんでも良いところを吸い取ってゆく。
この3ヶ月〝チワワ〟から学んだ事はかなり多い。彼にとってもはや人生の師匠といっても過言ではない。
そして良夫は電車に乗り、池袋のバイト先へ向かう。
彼のえらんだ職種は運送の仕事である。彼は金のよさだけでこのバイトを選んだ。「良夫君、おはよう♪」女の声だ。
20歳くらいで太っていて眼鏡をかけたいかにも〝おたっきー〟ぽい女だ。彼女は良夫に気があるらしい。良夫は思った。
いつの日か彼女の発するブスのオーラにからめとられ、逃げられなくなるのでは・・・と。
「お・・おはよう」良夫は引きつった笑顔を浮かべながらさっさとその場をあとにした。
そのとき彼女は思った「良夫さんて、て・れ・や・さ・ん・」
そして仕事もおわり、今日はたのしい給料日。帰ろうとした時、背中に妖気を感じた。
彼女がいた。「給料も入ったし一緒にのみにいこうよ」


435 名前:上京物語4 投稿日:03/04/29 18:22
「い、いや、きょ、きょ今日は用事があ、あるから・」(誰がお前なんかと)
「用事ってなんの用事?」「たいした事ないけど家の用事で・・・」
「たいしたことないならいいじゃない!」
彼女は強引に良夫の手を引っぱり歩き始めた。
良夫はあまりの恐怖声も出せず、ただ成り行きに身をゆだねる事しかできなかった。
その時〝チワワ〟の顔を思いうかべた。
(そうか、これはおごりなんだ、好きなだけ飲み食いをしてさよならしてしまえばいいじゃないか!)
そう考えるとすこし勇気がわいてきたが、周りの目が気になった。そして一軒の居酒屋に入った。
「予約していた○○ですけど」「えっ?予約?」その言葉をすぐ理解することはできなかった。
だがよく考えてみれば、これは周到に計画が仕組まれたもので給料日だから成り行きでここにいるのとは違っていた。
彼は寒気がはしった。「こちらにどうぞ!」2人は奥のテーブルに案内された。
そこはまるで店から隔離されたように柱の影になっている。2人は向かいあうように座った。
「私、良夫くんの横に坐ろうかな・・・」(やばい!なんとかしなくては)
彼女が席を立とうとしたので良夫はあせった。「このままの方がいいよ!君の顔が見やすいし、話もしやすいだろう」
良夫はあせるあまりとんでもない事を口走ってしまった事を後悔した。おそるおそる彼女を見た。
彼女はうついたまま恥ずかしそうにしている。
「やっだ、良夫君たら。私の顔がみたいなんて♪」
普通ならここで恥らう女を見て〝可愛い奴だ〟と思うのだろうが、
目の前の女からは微塵も感じない。ただ意識が遠のくのを必死におさえ、メニューを手にした。
(ず、き、あ、厚?)さっぱりわからない。彼女がそれに気づいたのか説明してくれた。
「この店は変わっていて、商品の頭文字だけで注文するの。
たとえば、きはきも、あはあいがも、厚は厚あげ・・・ってかんじにね」なるほど、良夫は納得して選ぶ。
(つくね、きも、厚揚げ、手羽先、串揚げ、大根、サザエの壷焼き、イカの造り)こんなもんだろう。

436 名前:上京物語5 投稿日:03/04/29 18:23
「と、いうことは、つ・き・あつ・て・く・だ・さ・い・・・か?」
「え?今なんていったの?つきあってくださいって言ったの?」「そんな恥ずかしい・・でも良夫君がそういうなら・・・つきあってあ・げ・る・」
良夫は目の前が真っ暗になった。
その後、良夫はなにを話したか記憶にない。数時間後、彼らは店を出た。支払いはもちろん良夫が払った。
「まだ食べたりないわね。こんどはお寿司でも食べよう」
「僕もう、おうちにかえらなきゃ・・・」「いいじゃない、すぐそこだから」
そしてむりやりすし屋に連れこまれた。
「へい!らっしゃい!お、なんだお前か!」
「お父さん、お母さん今日は彼氏を連れてきたの」
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その後、良夫は逃げることができず、東京で結婚したのだった。

――完――

長文すいませんでした。

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