洒落怖超まとめ

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中庭

   

162 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/10/18 20:49
少々長いですが…

以前、「標本室」という話を投稿させていただいた者です。
今回も、私が所属するある地方大学の医学部にまつわる
不思議な話をさせていただきます。

私どもの医学部キャンパスには、その長い歴史を物語るように、
新旧様々な建物が混在しています。
敷地内にある大学病院も三度目の移転新築工事が行われており、
それまでの建物はそれぞれ他の目的に使用されています。

旧病院の中で最も古い建物は、現在基礎医学研究棟として使用されて
いるのですが、ここが、この話の舞台です。
基礎研究棟は明治期に建築された、キャンパスの中でも最も古い部類に
属しています。

当時の建築様式を踏襲し、古風な噴水跡のある中庭を囲んで、
上から見ると「口」の字になっている、五階建ての建築物。
当時を偲ばせるなかなか風格のある建物ですが、手入れもされず
雑草が伸び放題になっている中庭、ところどころ剥げているリノリウムの床、
光の届きにくい廊下と、うら寂しい雰囲気も漂っています…

163 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/10/18 20:50
その建物の研究室に籍を置く講師のある先生は、その日も夜遅くまでご自身の
研究に精を出しておられました。もう夜もふけ、周りの研究室の電気も消えて
いましたが、先生はちょうど定期的に数字を取らなければならない実験を
なさっており、その時期は休日も返上で臨んでおられました。

やっと今日の分の数字も取り終わり、やれやれ帰ろうと研究室の電気を消し、
月明かりに照らされるのみの暗い廊下を、コツコツと階段に向かわれました。

その夜は実に月明かりが美しく、先生はふと、窓辺から月でも眺めてみようかと
思いつかれたそうです。廊下の中庭側の窓辺にふらりと近づき、窓を開け、上を眺める…
澄んだ月明かりは冷たく、連日の勤務に疲れていた先生も、我を忘れて射さす光に
魅入られてしまったそうです。

ふと、建物の反対側の窓辺に目を移すと、そこにも自分と同じ白衣姿を認めました。
先生は、まだ残っている人が自分と同じように月明かりに誘われて…と思い、愛想に
手でも振ろうかと思い、手を上げかけたとき…先生は眼前に広がるたくさんの窓辺に、
同じような白衣姿がポツリ、ポツリと見えることに気がつかれました。

164 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/10/18 20:51
こんな時間に研究員たちが大勢残っていることも不思議ですが、さらにおかしなことに、
誰も月明かりなどには目もくれず、一様に「下」を眺めているのです。
つまり…「中庭」を。

先生の背中に急に冷たい汗が流れました。「中庭」は雑草が生い茂り、見るべきもの
などはなにもない…いや、彼らは見ている…いやちがう…

見たくもないのに視線が中庭に降りていく。
月光に青白く照らされる中庭。真ん中には朽ちかけた石造りの噴水。生い茂る雑草。

165 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/10/18 20:52
誰もいない。何もない。何も、「見えない」。
しかし「彼ら」は見ている。いや「看ている」?誰を?誰もいない中庭。
見えない、いや、見える。「中庭」にいる、たくさんの、人。あの人たちは…
寝巻き姿、浴衣姿、咳き込む少年、車椅子の老女、うつむく青年、佇む看護婦…
それを見下ろす、白衣姿の、あれは、医師たち?
見えないのに?見える、看られている、もう二度と、家には帰れない、あの人たち。
それを見下ろす、白衣姿の、満足げな、笑み。

「あの人たちは帰れないのだ。帰りたくても、「彼ら」がそれを許さない…」
この話をなさった時の先生は、とても悲しそうなお顔をなさっていました。

医学部ではさまざまな不思議な話が語り継がれています。
機会があればまた、お話させていただきたいと思います。

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