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四隅

   

770 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:24:24 ID:9j0TgqFm0
大学1回生の初秋。
オカルト系のネット仲間と「合宿」と銘打ってオフ会を開いた。
山間のキャンプ地で、「出る」という噂のロッジに泊まること
にしたのである。
オフ会は普段からよくあったのだが、泊まりとなると女性が多
いこともあり、あまり変なメンバーを入れたくなかったので、
ごく内輪の中心メンバーのみでの合宿となった。
参加者はリーダー格のCoCoさん、京介さん、みかっちさんの女
性陣に、俺を含めた計4人。
言ってしまえば荷物持ち&力仕事専用の俺なわけだが、呼ばれ
たことは素直に嬉しかった。
日程は1泊2日。レンタカーを借りて乗り込んだのだが、シー
ズンを外したおかげでキャンプ地はわりに空いていて、うまい
空気吸い放題、ノラ猫なで放題、やりたい放題だったはずだが、
みかっちさんが「かくれんぼをしよう」と言い出して始めたは
いいものの、CoCoさんが全然見つからずそのまま日が暮れた。
夕飯時になったので放っておいてカレーを作り始めたらどこか
らともなく出てきたのだが、俺はますますCoCoさんがわからな
くなった。
ちなみに俺以外は全員20代のはずだったが・・・・・・

771 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:25:05 ID:9j0TgqFm0
その夜のことである。
「出る」と噂のロッジも酒が入るとただの宴の会場となった。
カレーを食べ終わったあたりから急に天気が崩れ、思いもかけ
ず強い雨に閉じ込められてしまい、夜のロッジは小さな照明が
揺れる中、ゴーゴーという不気味な風雨の音に包まれている、
という素晴らしいオカルト的環境であったにも関わらず、酒の
魔力はそれを上回っていた。
さんざん芸をやらされ疲れ果てた俺が壁際にへたり込んだ時、
前触れもなく照明が消えた。
やたらゲラゲラ笑っていたみかっちさんも口を閉じ、一瞬沈黙
がロッジに降りた。
停電だぁ、と誰かが呟いてまた黙る。屋根を叩く雨と風の音が
大きくなった。
照明の消えた室内は真っ暗になり、ヘタレの俺は急に怖くなった。
「これは、アレ、やるしかないだろう」
と京介さんの声が聞こえた。
「アレって、なんですか」
「大学の山岳部の4人が遭難して山小屋で一晩をすごす話。か
な」
CoCoさんが答えた。
暗闇のなか体を温め、眠気をさますために4人の学生が部屋の
四隅にそれぞれ立ち、時計回りに最初の一人が壁際を歩き始め
る。次の隅の人に触ると、触られた人が次の隅へ歩いていって
そこの人に触る。これを一晩中繰り返して山小屋の中をぐるぐ
る歩き続けたというのだが、実は4人目が隅へ進むとそこには
誰もいないはずなのでそこで止まってしまうはずなのだ。いる
はずのない5人目が、そこにいない限り・・・・・・

772 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:25:38 ID:9j0TgqFm0
という話をCoCoさんは淡々と語った。
どこかで聞いたことがある。
子供だましのような話だ。
そんなもの、ノリでやっても絶対になにも起きない。しらける
だけだ。
そう思っていると、京介さんが「ルールを二つ付け加えるんだ」
と言い出した。

1.スタート走者は、時計回り反時計回りどちらでも選べる。
2.誰もいない隅に来た人間が、次のスタート走者になる。

次のスタート走者って、それだと5人目とかいう問題じゃなく
普通に終わらないだろ。
そう思ったのだがなんだか面白そうなので、やりますと答えた。
「じゃあ、これ。誰がスタートかわかんない方が面白いでしょ。
あたり引いた人がスタートね」
CoCoさんに渡されたレモン型のガムを持って、俺は壁を這うよ
うに部屋の隅へ向かった。
「みんなカドについた? じゃあガムをおもっきし噛む」
部屋の対角線あたりからCoCoさんの声が聞こえ、言われたとお
りにするとほのかな酸味が口に広がる。
ハズレだった。アタリは吐きたくなるくらい酸っぱいはずだ。
京介さんがどこの隅へ向かったか気配で感じていた俺は、全員
の位置を把握できていた。

773 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:26:15 ID:9j0TgqFm0
CoCo    京介

みかっち  俺

こんな感じのはずだ。
誰がスタート者か、そしてどっちから来るのかわからないとこ
ろがゾクゾクする。
つまり自分が「誰もいないはずの隅」に向かっていても、それ
がわからないのだ。
角にもたれかかるように立っていると、バタバタという風の音
を体で感じる。
いつくるかいつくるかと身構えていると、いきなり右肩を掴ま
れた。
右から来たということは京介さんだ。
心臓をバクバク言わせながらも声一つあげずに俺は次の隅へと
壁伝いに進んだ。
時計回りということになる。
自然と小さな歩幅で歩いたが、暗闇の中では距離感がはっきり
せず妙に次の隅が遠い気がした。
ちょっと怖くなって来たときにようやく、誰かの肩とおぼしき
ものに手が触れた。みかっちさんのはずだ。
一瞬ビクっとしたあと、人の気配が遠ざかって行く。
俺はその隅に立ち止まると、また角にもたれか掛かった。壁は
ほんのりと暖かい。そうだろう。誰だってこんな何も見えない
中でなんにも触らずには立っていられない。

774 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:26:59 ID:9j0TgqFm0
風の音を聞いていると、またいきなり右肩を強く掴まれた。京
介さんだ。わざとやっているとしか思えない。
俺は闇の向こうの人物を睨みながら、また時計回りに静々と進む。
さっきのリプレイのように誰かの肩に触れ、そして誰かは去っ
ていった。
その角で待つ俺は、こんどはビビらないぞと踏ん張っていたが、
やはり右から来た誰かに右肩を掴まれ、ビクリとするのだった。
そして、『俺が次のスタート走者になったら方向を変えてやる』
と密かに誓いながら進むことしばし。
誰かの肩ではなく垂直に立つ壁に手が触れた。
一瞬声をあげそうになった。
ポケットだった。
誰もいない隅をなぜかその時の俺は頭の中でそう呼んだ。たぶん
エア・ポケットからの連想だと思う。
ポケットについた俺は、念願の次のスタート権を得たわけだ。
今4人は、四隅のそれぞれにたたずんでいることになる。
俺は当然のように反時計回りに進み始めた。
ようやく京介さんを触れる!
いや、誤解しないで欲しい。なにも女性としての京介さんを触
れる喜びに浸っているのではない。ビビらされた相手へのリベ
ンジの機会に燃えているだけだ。
ただこの闇夜のこと、変なところを掴んでしまう危険性は確か
にある。だがそれは仕方のない事故ではないだろうか。
俺は出来る限り足音を殺して右方向へ歩いた。
そしてすでに把握した距離感で、ここしかないという位置に左
手を捻りこんだ。

775 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:27:45 ID:9j0TgqFm0
次の瞬間異常な硬さが指先を襲った。指をさすりながら、ゾクッ
とする。
壁? ということはポケット? そんな。俺からスタートした
のに・・・・・・
呆然とする俺の左肩を何者かが強く掴んだ。
京介さんだ。
俺は当然、壁に接している人影を想像して左手を出したのに。
なんて人だ。
暗闇の中、壁に寄り添わずに立っていたなんて。
あるいは罠だったか。
人の気配が壁伝いに去っていく。
悔しさがこみ上げて、残された俺は次はどういくべきか真剣に
思案した。
そしてしばらくしてまた右肩を掴まれたとき、恥ずかしながら
ウヒ、という声が出た。
くそ! 京介さんだ。また誰か逆回転にしやがったな。
こんどこそ悲しい事故を起こすつもりだったのに。
頭の中で毒づきながら、時計回りに次の隅へ向かう。そしてみ
かっちさん(たぶん)には遠慮がちに触った。
次の回転でも右からだった。その次も。その次も。
俺はいつまでたっても京介さんを触れる反時計回りにならない
ことにイライラしながら、はやくポケット来いポケット来いと
念じていた。次ポケットが来たら当然反時計回りにスタートだ。
俺はそれだけを考えながら回り続けた。
何回転しただろうか、闇の中で気配だけが蠢く不思議なゲームが
急に終わりを告げた。

776 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:28:18 ID:9j0TgqFm0
「キャー!」
という悲鳴に背筋が凍る。
みかっちさんの声だ。
ドタバタという音がして、懐中電灯の明かりがついた。
京介さんが天井に向けて懐中電灯を置くと、部屋は一気に明る
くなった。
みかっちさんは部屋の隅にうずくまって頭を抱えている。
CoCoさんがどうしたの? と近寄っていくと、
「だって、おかしいじゃない! どうして誰もいないトコが来
ないのよ!」
それは俺も思う。ポケットが来さえすれば京介さんを・・・・・・
まて。
なにかおかしい。
アルコールで回転の遅くなっている頭を叩く。
回転が止まらないのは変じゃない。5人目がいなくても、ポケ
ットに入った人が勝手に再スタートするからだ。
だからぐるぐるといつまでも部屋を回り続けることに違和感は
ないが・・・・・
えーと、最初の1人目がスタートして次の人に触り、4人目が
ポケットに入る。これを繰り返してるだけだよな。えーと、
だから・・・・・・どうなるんだ?
こんがらがってきた。
「もう寝ようか」
というCoCoさんの一言でとりあえずこのゲームはお流れになった。
京介さんは俺に向かって「残念だったな」と言い放ち、人差し
指を左右に振る。
みかっちさんもあっさりと復活して、「まあいいか」なんて言
っている。
さすがオカルトフリークの集まり。
この程度のことは気にしないのか。むしろフリークだからこそ
気にしろよ。
俺は気になってなかなか眠れなかった。

777 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:28:50 ID:9j0TgqFm0
夢の中で異様に冷たい手に右肩をつかまれて悲鳴をあげたところ
で、次の日の朝だった。
京介さんだけが起きていて、あくびをしている。
「昨日起ったことは、京介さんはわかってるんですか」
朝の挨拶も忘れてそう聞いた。
「あの程度の酒じゃ、素面も同然だ」
ズレた答えのようだが、どうやら「わかってる」と言いたいら
しい。
俺はノートの切れ端にシャーペンで図を描いて考えた。

ACoCo    B京介

Dみかっち  C俺

そしてゲームが始まってから起ったことをすべて箇条書きにし
ていくと、ようやくわかって来た。酒さえ抜けると難しい話じゃ
ない。
これはミステリーのような大したものじゃないし、正しい解答
も一つとは限らない。俺がそう考えたというだけのことだ。でも
ちょっと想像してみて欲しい。あの闇の中で何がおこったのか。

778 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:29:55 ID:9j0TgqFm0
1 時計
2 時計
3 時計
4 反時計
5 時計
6 時計
7 時計
8 時計
9 時計
10 時計
・・・・・・

俺が回った方向だ。
そして3回目の時計回りで俺はポケットに入った。
仮にAが最初のスタートだったとしたら、時計回りなら1回転
目のポケットはD、そして同じ方向が続く限り、2回転目のポ
ケットはC、3回転目はB、と若くなっていく。
つまり同一方向なら必ず誰でも4回転に一回はポケットが来る
はずなのだ。
とすると5回転目以降の時計回りの中で、俺にポケットが来な
かったのはやはりおかしい。
もう一度図に目を落とすと、3回転目で俺がポケットだったこ
とから逆算するかぎり、最初のスタートはBの京介さんで時計
回りということになる。1回転目のポケット&2回転目のスタ
ートはCoCoさんで、2回転目のポケット&3回転目スタートは
みかっちさん、そしてその次が俺だ。俺は方向を変えて反時計
回りに進み、4回転目のポケット&5回転目のスタートはみか
っちさん。そしてみかっちさんはまた回転を時計回りに戻した
ので、5回転目のポケットは・・・・・・
俺だ。
俺のはずなのに、ポケットには入らなかった。
誰かがいたから。

779 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:30:29 ID:9j0TgqFm0
だからそのまま時計回りに回転は続き、そのあと一度もポケッ
トは来なかった。
どうして5回転目のポケットに人がいたのだろうか。
「いるはずのない5人目」という単語が頭をよぎる。
あの時みかっちさんだと思って遠慮がちに触った人影は、別の
なにかだったのか。
「ローシュタインの回廊ともいう」
京介さんがふいに口を開いた。
「昨日やったあの遊びは、黒魔術では立派な降霊術の一種だ。
アレンジは加えてあるけど、いるはずのない5人目を呼び出
す儀式なんだ」
おいおい。降霊術って・・・・・・
「でもまあ、そう簡単に降霊術なんか成功するものじゃない」
京介さんはあくびをかみ殺しながらそう言う。
その言葉と、昨日懐中電灯をつけたあとの妙に白けた雰囲気を
思い出し、俺は一つの回答へ至った。
「みかっちさんが犯人なわけですね」
つまり、みかっちさんは5回転目のスタートをして時計回りに
CoCoさんにタッチしたあと、その場に留まらずにスタート地点
まで壁伝いにもどったのだ。そこへ俺がやってきて、タッチする。
みかっちさんはその後二人分時計回りに移動してCoCoさんにタ
ッチ。そしてまた一人分戻って俺を待つ。
これを繰り返すことで、みかっちさん以外の誰にもポケットが
やってこない。
延々と時計回りが続いてしまうのだ。
「キャー!」という悲鳴でもあがらない限り。
786 名前: 四隅 2006/08/28(月) 21:29:48 ID:9j0TgqFm0
せっかくのイタズラなのに、いつまでも誰もおかしいことに気
づかないので、自演をしたわけだ。
しかしCoCoさんも京介さんも、昨日のあの感じではどうやらみ
かっちさんのイタズラには気がついていたようだ。
俺だけが気になって変な夢まで見てしまった。
情けない。
朝飯どきになって、みかっちさんが目を覚ました後、「ひどい
ですよ」と言うと「えー、わたしそんなことしないって」と白
を切った。
「このロッジに出るっていう、お化けが混ざったんじゃない?」
そんなことを笑いながら言うので、そういうことにしておいて
あげた。

後日、CoCoさんの彼氏にこの出来事を話した。
俺のオカルト道の師匠でもある変人だ。
「で、そのあと京介さんが不思議なことを言うんですよ。5人
目は現れたんじゃなくて、消えたのかも知れないって」
あのゲームを終えた時には、4人しかいない。4人で始めて5人
に増えてまた4人にもどったのではなく、最初から5人で始め
て、終えた瞬間に4人になったのではないか、と言うのだ。
しかし俺たちは言うまでもなく最初から4人だった。なにをい
まさらという感じだが、京介さんはこう言うのだ。よく聞くだ
ろう、神隠しってやつには最初からいなかったことになるパタ
ーンがある、と。

787 名前: 四隅 2006/08/28(月) 21:30:22 ID:9j0TgqFm0
つまり、消えてしまった人間に関する記憶が周囲の人間からも
消えてしまい、矛盾が無いよう過去が上手い具合に改竄されて
しまうという、オカルト界では珍しくない逸話だ。
しかしいくらなんでも、5人目のメンバーがいたなんて現実味
が無さ過ぎる。その人が消えて、何事もなく生活できるなんて
ありえないと思う。
しかし師匠はその話を聞くと、感心したように唸った。
「あのオトコオンナがそう言ったのか。面白い発想だなあ。
その山岳部の学生の逸話は、日本では四隅の怪とかお部屋様
とかいう名前で古くから伝わる遊びで、いるはずのない5人
目の存在を怖がろうという趣向だ。それが実は5人目を出現
させるんじゃなく、5人目を消滅させる神隠しの儀式だった
ってわけか」
師匠は面白そうに頷いている。
「でも、過去の改竄なんていう現象があるとしても、初めから
5人いたらそもそも何も面白くないこんなゲームをしますかね」
「それがそうでもない。山岳部の学生は、一晩中起きているた
めにやっただけで、むしろ5人で始める方が自然だ。それから
ローシュタインの回廊ってやつは、もともと5人で始めるんだ」
5人で始めて、途中で一人が誰にも気づかれないように抜ける。
抜けた時点で回転が止まるはずが、なぜか延々と続いてしまう
という怪異だという。
「じゃあ自分たちも、5人で始めたんですかね。それだと途中
で一度逆回転したのはおかしいですよ」

788 名前: 四隅 2006/08/28(月) 21:32:00 ID:9j0TgqFm0
5人目が消えたなんていうバカ話に真剣になったわけではない。
ただ師匠がなにか隠しているような顔をしていたからだ。
「それさえ、実際はなかったことを5人目消滅の辻褄あわせの
ために作られた記憶だとしたら、ストーリー性がありすぎて
不自然な感じがするし、なんでもアリもそこまでいくとちょ
っと引きますよ」
「ローシュタインの回廊を知ってたのは、追加ルールの言いだ
しっぺのオトコオンナだったね。じゃあ、実際の追加ルール
はこうだったかも知れない『1.途中で一人抜けていい。
2.誰もいない隅に来た人間が、次のスタート走者となり、
方向を選べる』とかね」
なんだかややこしい。
俺は深く考えるのをやめて、師匠を問いただした。
「で、なにがそんなに面白いんですか」
「面白いっていうか、うーん。最初からいなかったことになる
神隠しってさ、完全に過去が改竄されるわけじゃないんだよね。
例えば、誰のかわからない靴が残ってるとか、集合写真で一
人分の空間が不自然に空いてるとか。そういうなにかを匂わ
せる傷が必ずある。逆に言うとその傷がないと誰も何か起っ
てることに気づかない訳で、そもそも神隠しっていう怪談が
成立しない」
なるほど、これはわかる。
「ところでさっきの話で、一箇所だけ違和感を感じた部分がある。
キャンプ場にはレンタカーで行ったみたいだけど・・・・・・」
4人で行ったなら、普通の車でよかったんじゃない?
師匠はそう言った。

789 名前: 四隅   ラスト 2006/08/28(月) 21:32:41 ID:9j0TgqFm0
少なくとも京介さんは4人乗りの車を持っている。
わざわざ借りたのは師匠の推測の通り、6人乗りのレンタカー
だった。
確かにたかが1泊2日。ロッジに泊まったため携帯テントなど
キャンプ用品の荷物もほとんどない。
どうして6人乗りが必要だったのか。
どこの二つの席が空いていたのか思い出そうとするが、あやふ
やすぎて思い出せない。
どうして6人乗りで行ったんだっけ・・・・・・
「これが傷ですか」
どうだかなぁ。ただアイツが言ってたよ。かくれんぼをしてた
時、勝負がついてないから粘ってたって。かくれんぼって時間
制限があるなら鬼と隠れる側の勝負で、時間無制限なら最後の
一人になった人間の勝ちだよね。どうしてかくれんぼが終わら
なかったのか。あいつは誰と勝負してたんだろう。
師匠のそんな言葉が頭の中をあやしく回る。
なんだか気分が悪くなって、逃げ帰るように俺は師匠の家を出
た。
帰り際、俺の背中に「まあそんなことあるわけないよ」と師匠
が軽く言った。
実際それはそうだろうと思うし、今でもあるわけがないと思っ
ている。
ただその夜だけは、いたのかも知れない、いなくなったのかも
知れない、そして友達だったのかも知れない5人目のために、
祈った。

 - Part 140, 師匠シリーズ, 洒落怖 ,