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失せ物探し

   

581本当にあった怖い名無し 2009/09/10(木) 00:28:48 ID:eaVRGZ/P0

僕にはオカルト道の師匠と呼べる人がいる。
人間的には最低だが、オカルトに関しての才能だけは認めざるを得ない。
そんな師匠にも師匠がいたというのを知らされたのは
師匠が失踪したあとのことだった。
きっかけは本当に偶然だった。
師匠が住んでいた家の近くに古い喫茶店があった。
僕は貧乏学生だったのでコンビニで買った缶コーヒーを持参し
師匠の家で飲むことが多かったので、その喫茶店に足を踏み入れたことは一度としてない。
僕がどうしてその喫茶店に入ったのか、それはまさに偶然であった。
師匠の家の近くを久しぶりに通った。師匠が失踪する前は頻繁にこの道を通っていた。
しかし、師匠が消えて以来、僕はなぜかこの道を避けるようになっていた。
だからその日、その道を通ったのは偶然以外の何ものでもない。
普段通っている道が突如使えなくなっていたのだ。
突如として道路が陥没してしまったらしい。もちろん車の通行は禁止。迂回路が提示されいてた。
歩行者・自転車なら通れる幅があったのだが、また陥没するかもしれないということで
工事現場の警備員はがんとしてその道を通らせなかった。
僕は仕方なくその迂回路を進んでいった。
路地には係員が一人ずつ立って誘導していた。
最初僕は異変に気づいておらず、ただただ誘導されるがままに歩を進めていた。
そしてふと我にかえる。
あれ。むこうの道は通れるのになんでこの係員はこちらの道へ誘導しているのだろう。
そんな疑問を覚えた。しかし方向的には正しかったので、僕はそのまま歩を進めた。
そうこうしているうちに、見覚えのある通りに出た。
師匠の家がある通りだ。
僕は後ろを振り返る。するとさっきまでいた係員がいなくなっていた。
しかし僕はそれでも自分を納得させるべく、さっき陥没した道路が復旧したのだろうと
勝手に結論づけていた。仕方がない。 気は進まなかったが帰り道だったのでその通りをずんずんと進んでいった。
久々にみる師匠の部屋の窓。さっと影が動いた。
あの不愉快な出来事があってからここを通っていなかったので
ああ、新しい人が入居したんだろう。この近辺は学生も多いし、あれだけ安ければ当然だ。
そして師匠の家のわきを通り過ぎ、喫茶店が見えてきた。


583本当にあった怖い名無し 2009/09/10(木) 00:29:42 ID:eaVRGZ/P0

「こんなところで何してるの?」
前方から歩いてきた女性に声をかけられた。その顔には確かに見覚えはあったが、
僕は名前を思い出せなかった。
「何よ。忘れちゃったの?」
ああ、Mさんだ。
「忘れてませんよ。久しぶりです。」
人形の一件いらい、僕は彼女の所属するオカルトフォーラムから離れ、当然のようにMさんとも疎遠になっていた。
風の便りによると、Mさんは新興宗教にはまりこんだ、という噂が聞こえてきたのも
僕がMさんと距離を置いた理由だった。
「ちょっと時間ある?コーヒーでも飲まない?」
僕はひるんだ。宗教の勧誘か?と恐れた。
「大丈夫よ。いまはまともだから。」
僕の顔色を読んだのだろう。Mさんは自らまともであること、そして信仰を捨てたことに言及した。
「純粋だったのね。」
自分で言うか?僕はそう思ったが口に出さずにいた。
それからしばらく宗教に関わってとんでもない目にあったことを聞きもしないのに勝手に語り始めた。
僕はうんざりしていた。Mさんにではない。他人にどんどん巻き込まれてしまう自分にだ。
「何よ。そんな顔して。」
また顔色を読まれてしまった。恋人にもあなたはすぐに顔に出す悪い癖があると言われていた。
イヤならイヤとはっきり言いなさい、と。
「退屈なの?まだ付き合ってもらうわよ。」と食べ物のメニューを見始めた。
「あ、ホットサンドがある。すみません、ホットサンド二つ。」
頼んでもいないのに僕の分までMさんは頼んだ。

585本当にあった怖い名無し 2009/09/10(木) 00:35:36 ID:eaVRGZ/P0

ホットサンドを持ってきたマスターが言った。
「あんた、○○大の学生さん?」
「はい。もう卒業です。」
「そうかい。ここは○○大の学生のたまり場だったんだよ。最近はあっちの通りが栄えてるから
めっきり学生は減ってしまったけどね。」
「あの写真は○○大のものですか?」
「そうだよ。ここはあの大学のオカルト研究会?の会合場所だったんだ。おれは名誉会長なんだぜ。」
僕は驚いた。この喫茶店がオカルト研究会とつながっていたなんて・・・。
僕はホットサンドをむしゃむしゃと食べるMさんを尻目に、壁に貼り付けられた写真を確かめた。
いた。すぐに師匠は見つかった。隣には色気とは無縁の女性が立っていた。Aさんではなかった。
「あの、この人は?」
「ああ、失せもの探しだよ。」
失せもの探し?師匠がそんな風に呼ばれていたなんて初めて知った。
「僕の師匠なんです。この人のこと何か知ってたら聞かせてもらえませんか?」
僕とマスターの間に齟齬があったようだ。
「師匠って言うけど、彼女はあんたが入学する前には消えちゃってたはずだよ。」
彼女?
「こっちの男の人が僕の師匠です。」
「ああ、金魚のふんちゃんかい。しかしあいつが師匠とはなあ。」
「金魚のふんちゃん?」
「そう。あいつはいつも失せモノ探しを師匠と慕ってくっついていたんだ。金魚のふんみたいにな。」
僕は師匠の師匠の存在を知った。Mさんが僕を見る。そして、ホットサンドを指さし、
(これ食べていい?)というジェスチャーをした。僕はうなずき、マスターとの話を続けた。
「さっき消えたって言いましたよね?」
「失せモノ探しかい?ああ、彼女が消えてもう何年経ったかねえ。あれからオカルト研究会のみんなも
ここには集まらなくなった。あいつなんて、すぐそこに住んでるのに一度も顔を見せなかったよ。
で、あいつはどうしてるんだ?」
「消えました。」

586本当にあった怖い名無し 2009/09/10(木) 00:37:47 ID:eaVRGZ/P0

マスターはまるでそれを予期していたかのように「そうか。やっぱりな。」とひとりごちた。
「何ですか?どうしてですか?何か知ってるんですか?」
僕は混乱していた。マスターはびっくりしたのか、僕を落ち着けようとし、コップ一杯の水を差しだした。
それを一気に飲み干した僕は「すみません。」と謝った。
「落ち着いたかい?まあ、俺も失せモノ探しが消えた時はびっくりしたからなあ。 でも、あいつが消えたことは
当然としか俺には思えないんだよ。」
僕はどうしても理由が知りたかった。マスターが落ち着いているのも理解できなかった。
「あいつの弟子なら話しても怒らないだろうな。」
マスターは自分を納得させるように話し始めた。
「失せモノ探しは消えたと言われているし、信じられている。でもな、彼女は自ら姿を消しただけだ。
そして俺は彼女が死んだなんて噂すらあることも知っているが、彼女は死んじゃいない。」
そう言ってマスターは二階へ上がっていった。
Mさんはホットサンドを食べ終えていた。そこにいる理由はもうないのに、なぜか居座っていた。
「帰らなくていいんですか?」
「まだ私が宗教に誘うとでも思ってるの?ばっかじゃない。面白そうだからもう少し話を聞いてくことにする。」
マスターが降りてきた。写真の束を手にして。
マスターがテーブルにその束を無造作に置いた。よく見るとポストカードだった。
日本全国を渡り歩いているかのように、様々な観光地のポストカードがあった。
中には自分で撮影したと思われる写真の裏に文章を書いているだけのものもあった。
「読んでもいいですか?」
マスターはうなずいた。僕は一枚一枚、確かめるようにして書かれた文章を読んでいった。
しかし、それら全てが近況報告だった。文末には、失せモノ探し、とサインが必ずあった。
途中からそのサインが判子のようなものに変わっていた。それが私の生存証明とでも言うように。
「あいつは失せモノ探しを探しに行ったんだよ。」
僕はすっと理解した。何の説明もいらなかった。ただ理解したのだ。
そしてマスターはこんな話をしてくれた。


587本当にあった怖い名無し 2009/09/10(木) 00:39:52 ID:eaVRGZ/P0

師匠の師匠が三回生の頃、その地区の著名な権力者から愛娘の捜索を頼まれたのだという。
もちろん彼女はそれを断った。人を探すことはできない、と。
しかし相手は絶望的だった。「全ての財産をあなたに差し上げてもいい。だからお願いする。」
結局彼女はその願いを聞き入れた。経費と日給だけもらうがそれ以上のものはいらないと言って。
しかし現実は悲惨なものだった。愛娘はとある山奥にある廃墟になったホテルの屋根裏で発見されたのだ。
そこは女の幽霊が出ると噂される心霊スポットだった。
同行した権力者は彼女と僕の師匠に言った。
「警察には絶対に届けないで欲しい。そしてこのことは全て忘れてくれ。
もし口外したら、君たちの命は保証できない。わかったな。」
結局その権力者の愛娘の死は事件にもならなかった。いや、死亡とすら認定されていないそうだ。
全てが闇の中に葬られたのだという。
その権力者の奥さんは愛娘の死を受け入れられず精神を病み、海外に強制的に移住させられ、
監視付きの豪邸で療養させられているという。


589本当にあった怖い名無し 2009/09/10(木) 00:41:24 ID:eaVRGZ/P0

彼女も僕の師匠も沈黙を守った。しかし、突如地元で若者が続々と自殺し始めた。
一ヶ月で四人、その後も一人、二人と死んでいき、最終的には12人が自殺したそうだ。
ところが、師匠の師匠はその連鎖自殺に不信を抱いた。六人目が自殺した時、
これは復讐に違いない、と二人は確信した。
そう、彼ら全員がその権力者の愛娘と何らかの関わりがあったという噂があったのだ。
失せモノ探しの彼女は心を痛めた。そして、自ら調査を開始し、一人の若者に話を聞くことができた。
その男の子は権力者の愛娘が三人の男たちにレイプされるのを見ていたという。
ただ見ていただけなんです。信じてください、と話しながら何度も言ったそうだ。
しかし、すでに魔の手は彼にも迫っていた。 彼に会った前日、ただ見ていただけの女の子が自殺していた。
首謀者は四人。
むかつくからあいつやっちゃってよとレイプを依頼した女とその彼氏三人だった。
しかし全員彼女が権力者の娘であることを知らなかった。
世間的には隠しているのが当然の危険な権力者だったからだ。
四人は面白い見せ物があるから来い、と友人や後輩たちを集めた。
それが自殺したとされる12人だった。
権力者の愛娘はショック死だったらしい。 三人目が行為を終えた直後に痙攣し、苦悶したまま息を引き取ったそうだ。
彼の推測では、何か危険なドラッグでも飲まされていたのかもしれなという。
全員を共犯者にするため、首謀者四人は死体の遺棄現場まで全員を拘束したそうだ。
そして、一人一人にその死体を運ばせたという。
僕も殺されます。もうダメです。全国的に組織があって絶対に逃げられないって。


590本当にあった怖い名無し 2009/09/10(木) 00:42:34 ID:eaVRGZ/P0

一週間後、彼も死体で見つかった。もちろん、自殺と断定されていた。
多くの死を色々な手段を使って調べてみた。しかし、その全てが自殺と断定する根拠すらなく、
状況も異様なものばかりだった。
師匠の師匠はその権力者に単身会いに行った。
そして、止めるように頼んだという。当然ながらその願いは聞き入れられなかった。
彼はこう言ったそうだ。
「きみもここから離れた方がいい。そして二度とこの地域に戻ってくるな。
もしきみがとどまれば何が起こるか分からない。私はそれくらい怒っている。」
彼女は自らの保身を優先した。当然だ。誰だって逃げる。
逃げない人の方がおかしい。しかし師匠だけは違った。大学を終える覚悟があったのだろう。
そして師匠に危険が及ぶことはなかった。
次々と自殺者は増え、それはある日を境にぱたっと止んだ。
首謀者の一人とされた女が、長期失踪後に自殺で発見された。それは愛娘の命日だったという。
復讐は完結した。一説によれば、その女の手足には手錠の跡が残っていたという。
そして、ある場所は見るも無惨な形になっていたそうだ。まるで巨大な何かを詰め込まれたように。
外傷がたくさんあったにも関わらず、自殺で処理された。遺族たちも無言を貫いた。
彼らはタブーを犯してしまったのだ。
またある噂によれば、遺族の家には自殺したとされる息子の局部が送りつけられていたという。

ここまで話してマスターは沈黙し、カウンターの奥に入りコーヒーを入れ始めた。
僕たちは無言だった。Mさんすら無言を貫いていた。
そしてコーヒーを目の前に差し出され、僕たちは無言で飲み干した。

591本当にあった怖い名無し 2009/09/10(木) 00:43:57 ID:eaVRGZ/P0

「そんな話して、大丈夫なんですか?」僕は黙っていられなかった。

「もう過去の話だ。その権力者と言われる人物も亡くなったしな。」
はたと気づいた。先月だか先々月、とある人物の盛大なお別れ会が某ホテルで開かれていた。
僕がたまたま彼女と結婚式の準備で訪れていたホテルだった。
因縁じみている。そう思った。これも師匠の仕業か・・・。

そしてマスターは一枚のポストカードを僕に差し出した。
「先週届いたんだ。」
四国のある県の住所が書かれていた。
「たぶん、その地に落ち着いたんだね。興味があったら会いに行ってみるといいよ。」

その晩、僕は四国への深夜バスの中にいた。一人で。
大きな橋を渡る頃になって目覚めた僕は携帯が光っていることに気がついた。
Kさんだった。
「行くんじゃない。」
メールにはそう打たれていた。あの人らしい。
しかしそれだけのはずがないと僕はページを送ってみた。
「お前は止めても行くだろう。なら一つだけ聞いて欲しいことがある。
四国にいる知り合いにタリスマンを預けてある。
それを先に受け取ってから行け。」
またスペースが続いた。
「死ぬなよ。絶対に。」

僕は涙が出てきた。ぽろぽろと自分の意志ではもう止められないほど号泣していた。

四国のとある駅に到着したのは早朝だった。
僕はバスを降り、近くにあるという温泉へ行き、一息ついてから
Kさんの知り合いと会うことにした。
仕事中なので、お昼休みに駅まで迎えに来てくれるそうだ。
知らない街をぶらぶらと歩きながら、師匠にまた会えるのかもしれないという期待が高まっていった。

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