洒落怖超まとめ

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最後のお別れ

   

戦争中の話なんだけど、母方のばあさんの兄(大伯父)が陸軍士官学校を出たエリートで、
当時満州の部隊に配属されていた。時々実家のある鹿児島に手紙を出していたんだけど、
1944年の秋ごろから急に手紙がぱったり途絶えてしまったらしい。
ばあさんやひいばあさんは、最悪のパターンを想像しながら不安な日々を送っていた。
1945年になって間もない冬の夜。ばあさんが部屋で寝ていたら革靴の音がしたらしい。
あの当時革靴を履いているのは軍人と一部の政治家ぐらいのものだから、すぐに
「これは兵隊だ」と気づいたそうだ。ばあさんはそのまま横で寝ていた姉に、誰か
来ていることを知らせた。ばあさんの姉はおとなしく寝ているように言い聞かせて、
自分は薄目を開けて音のするほうに頭を動かした。

そしたら、部屋の横の縁側に、ぼうっと大伯父が現れた。帽子をかぶって腰にサーベルをさし、
マントを着た正装姿だったらしいけど、やけに青白くて恨めしそうな、残念そうな表情を
していたそうだ。ばあさんは思わず、「兄さんが帰ってきた!!」と叫んで、隣に寝ていたひいばあさんを
起こしに走っていった。ひいばあさんやばあさんのもう一人の姉が駆け込んでくると、
大伯父は軽く会釈をすると、どこか苦しそうに胸を押えながらすうっと消えていった。
それから1ヶ月ほどして、大伯父の戦死通知が来た。でもただ満州で指揮中に死んだ
と書かれているだけで、戦死か病死かは分からなかったし、遺骨も最後まで見つからなかった。
おそらく部隊が撤退中に大伯父は病臥していたため置いていかれたのでは、とばあさんは
考えている。

そのあとばあさんの二番目の姉は病気で亡くなって、ばあさんも鹿児島の空襲で
大怪我した。その時にも、ばあさんは防空壕で大伯父らしき人が日本刀を左手に握って
正座している姿を見たらしい。
鹿児島の空襲は結構酷かったけど、ばあさんの実家は焼け残った。死んだ大伯父が守って
くれたんだといって、親戚はみんな感謝している。

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