洒落怖超まとめ

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森のなかで

   

今から20年程前、私が高校2年生の事です。
夏休みに、親友の森*と浅*、私の3人で東北を旅しました。

親友二人は鉄道旅行が目的、私は野鳥観察が目的で、
2週間の旅程は、北東北をゆったり鉄道で巡りながら、
野生生物の宝庫を訪ね歩くといったものでした。

旅の中盤、青*県の日本海側にある十*湖を訪ねました。
十*湖は、鬱蒼と茂る広葉樹の森の中に、
その名の由来となった数の湖が点在する湖沼群です。
訪ねる人もほとんど無く、不気味な雰囲気を漂わせています。
元々都会育ちである親友たちは、
「凄いところだなぁ!まさに秘境だね!!」などとはしゃぎ回っていました。

その日の宿泊先は、
湖のほとりにあるバンガローを予定していました。
旅行に行く前に、3人で公衆電話から予約の電話を入れてあったのです。
ところが、いくら歩いても着きません。案内も全く見当たらず、
少し歩くたびに、迷路の様に入り組んだ山道が次々と現れ、
いつのまにか湖からも離れてしまいました。
鬱蒼と茂る木々によって太陽光線が遮られた、
昼なお暗い山道を、迷い歩きました。

皆が遭難の恐怖に押し潰されそうになっていた時でした。
私たちが進もうとしていた道の方から、
なんともイヤーな臭いが漂ってきたのです。
臭いの元には、毛むくじゃらのおじさんがいました。
なにか、生命の危機を感じさせるイヤーな臭いに、逃げる体勢をとり掛けていた
私たちはほっと胸を撫で下ろしました。
臭いは、おじさんが肩にかけていた熊の毛皮のものだったようです。
おじさんにバンガローの場所を尋ねると、なぜだか一瞬戸惑いの表情を浮かべてから、
おじさんが歩いてきた方を指差し、「すぐそこだよ。でも、やめた方がいいんじゃないかな」と
言うと、スタスタと歩いていってしまいました。(方言交じりで正確にはわかりませんでしたが)

果たして、山道を進むと目の前に小さなバンガローが6つ並ぶキャンプ場があったのです。
私と浅*は大喜びで駆け回りましたが、一人森*だけが沈んだ顔をしていました。
「どうしたんだよ。助かったのに」
「いや、さっきのおじさん・・・、」
「ん?」
「左手が無かったんだよ。手首から先、何かですっぱり切り落としたみたいに」
「・・・・事故で無くしたんじゃないか?」
「血が出てたんだよ!真っ赤な切り口からポタポタ垂れていたんだぜ!」青ざめた森*の言葉に、言いようの無い恐怖に晒されました。
しかし、もう夕方になっており、これから森を抜けるのも危ないということで
バンガローに泊まることにしました。
キャンプ場の隅にある管理棟から、管理人直通の電話をかけました。
「ツーツーツーツー」 「あれ、出ないぜ?」
何度か時間を置いてかけ直したのですが、つながりません。
普通の電話の様にダイヤルつきでは無く、受話器を外せばつながる電話なのに!!
「やりぃ!タダで泊まれるんじゃねぇ?」能天気な浅*が喜んでいますが、
私と森*はいよいよヤバイのではと、冷たい汗を流していました。
「ま、まぁ、電話の故障なのかもな。明日の朝また電話してみよう」

つるべ落としに太陽は沈んでいきます。簡単な夕飯を済ませると、
3人は早々にバンガローの中にこもりました。バンガローは狭く、3人が川の字に寝るともういっぱいでした。なぜかラジオも
うからず、私たちは将来の事、好きな女の子の事などを語り合い、言い知れぬ恐ろしさを
忘れようとしていました。浅*もいつしか怖くなってきたようで、もう能天気な事は言わなくなっていました。

3人が話し疲れてしまい、初めて数十秒の沈黙が訪れた、午前2時ごろでした。

《シュイーーーーーーーーーーーーーン》
10秒以上も、甲高い金属音がキャンプ場に鳴り響いたのです。

しばらく、私たちは口を開くことができませんでした。
「・・・・・おい」
「今聞こえた!?」
「お前も?」「おれも聞こえた!あれなんだよ!?」電気のこぎり、いわゆるチェーンソーの音でした。
それが、どう遠く見ても30メートルと離れていないところから聞こえたのです。

「逃げよう!」「でも、外に出たらやられるよ!」「だからといってここにいたらいつか殺されるよ!!」

でも、外に出る勇気はありませんでした。そのバンガローはなぜか左右に扉があって、1箇所を固めておけば対抗できる
構造ではありません。しかも内部が狭いので身動きもとれません。襲われれば、確実に死ぬ!!

私たちは、いつ扉を開けられるかと身を縮めて、天に祈るしかありませんでした。
《シュイーーーーーーーーーン》更に近くでチェーンソーが鳴り響きました。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」どれだけ時が流れたのでしょう、私たちは全身にぐっしょりと汗をかいたまま、
身動きもできずいました。そして、ガラスを通して朝の光が入ってきたとき、
精神の限界に達したのか3人とも気を失ってしまったのです。

気がついたときは、昼の12時になっていました。
恐る恐る扉をあけると、なにもいません。
「助かった~!!」皆、涙を流して抱き合いました。
「とっとと帰ろうぜ!タクシー呼べないかな?」
管理人に電話をして、ついでに車も呼んでもらおうと、管理棟に向かいました。
しかし、受話器を耳に当てても、なにも聞こえません。
何も・・・・、「うわぁーー!!」「電話線が切れている!!」

まるでチェーンソーで切ったように・・・。誰もいなかったときには、昨晩の音は空耳だったのかも。などと能天気に
考えていた3人でしたが、現実を叩きつけられ、いよいよパニックに陥りました。
昨日見た片手の無いあのおやじが、チェーンソーを振り回して襲い掛かってくる姿が
脳裏にへばりつき離れません。

逃げようにも、土地勘のあるおやじを相手にどう逃げればいいのでしょう。

途方に暮れていたその時、私たちがやってきた山道の方から、
ガサガサと草を掻き分ける音が聞こえてきました。

「ぎゃあああああああああああ」山道を掻き分けてきたのは、拳銃を持った男たちでした。
「助けて!!」「お前らナニやってるんだ!!!」

猟友会と警察の山狩りだったのです。
警察官に連れられ、駅まで歩く途中聞いた話はこんなものでした。

「1週間前に、キャンプ場のそばで殺人があった。君らが歩いた道からは
見えなかったのだろうが、バンガローから50メートルも離れていない。
犯人はずっと森の中を逃げ回っていて、一度は犬が追い詰めたが我々が行ってみると
犬は首を切り落とされていた。危険なので、一帯には入らないように周知したんだが、
君らは知らなかったのか?」

警察でカップラーメンをご馳走になり、ほっとしたところで昨日会ったおやじの事を話すと、「良く、殺されずにすんだなぁ」と言われました。
まさにあのおやじが殺人鬼だったのです。
解放された脚で列車に乗り込み、旅を終えました。

その後、殺人鬼は見つかり、警察に取り囲まれて、自らの命を絶ったそうです。
チェーンソーで・・・。

今でも、なぜ私たちが殺されなかったのか、不思議でたまりません。

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