洒落怖超まとめ

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橋に巣食うモノ

   

109 < ◆lQipvWLods 2005/04/15(金) 17:10:51 ID:ILf2i83w0
オレが川沿いの土手を、夜中に散歩していた時の事。
真冬と言う事もあり、川の流れる音以外には何も聞こえない静けさの中で、オレは考え事をしていた。
突然、前方から大きな水音がしたので、ビクッとして立ち止まる。
100mぐらい先に架かっている橋の下辺りだろうか?
早歩きで土手を進み、橋の近くまで来て見ると、暗くうねる水面には月明かりに照られて、微かに波紋が広がっている。
川面から10mほど離れた土手から暫く眺めていたが、他に何も音がしない。
周囲には人は居ない様だし、橋の上に外灯があるが車も人影も見えない。
何か落ちたのかと思ったが、結局魚だろうと、それ以上気にも留めなかった。

だが、翌々日の新聞に”人体の一部発見”の報道がされる。
現場はあの橋から下流に数百メートルの場所で、学校帰りに見に行くと現場検証の最中だった。
暫くしてこの付近一帯に奇妙な噂が立ち始めた。
『相模川の高○橋近くで、黒装束が河原を徘徊している』というもの。
オレは元々、都市伝説や噂話なんか信じていないが、何しろ地元ネタである上に近くを流れる川での噂だ。
さすがに気にならないと言えば嘘になってしまう。
興味は出たが、なぜか夜の散歩をする気にはなれなかった。

その噂には続きがあったからだ。
『その黒装束は人を見つけると、追いかけてきて体の一部をもぎ取って行く』
学校でオレを捕まえて真剣な顔をしてそんな話をする級友に、少しうんざりしながら相槌を打っていた。
見つかったのが、体の一部らしいから其れを求めて・・・と言う事なんだろう。
”殺人未遂か傷害で、警察沙汰になっているだろうが!”
オレはそう思ったが、面倒くさくて突っ込む気もなかった。
何しろ、暇な田舎での出来事だ。
話している本人も信じているかどうか疑わしい。

110 < ◆lQipvWLods 2005/04/15(金) 17:11:56 ID:ILf2i83w0
だが、級友の興奮とは裏腹に”事件”は呆気ない終わり方をする。
更に下流でバラバラの遺体が発見されたからだ。
少なくとも、黒装束なんてものは”実在”しないという事だ。
そういう訳で"被害者の発見"で、殺人の方向で警察は動くようだし、怪しい噂は単なる噂として都市伝説になるか、
其れとも消えてなくなるかに違いなかった。
この一帯を騒がした黒装束の噂はこうして終わった訳だ。

オレは数日後、友人に誘われて土手を歩いている。
全く下らない事だが、黒装束がまだいると言うのだ。
そんな物はいないと言う事を証明しないとずっと煩そうだったので、やむなく散歩に付き合うと言うのなら一緒に
移動してやると言ったのだ。
他愛も無い事を話しながら、あの橋の近くまで来ると、微かに人の声が聞こえてくる。
一瞬ドキッとしたが、月明かりの下に見えるのは人間だった。
”おどかしやがる”
オレは内心の動揺を悟られない様に友人に「良く見ろよ。肝試しにでも来たんだろ?オレらと同じだ」
と言って指差そうとしたが・・・
友人が其れを遮って、震える指を向けたのでオレもその方向を見る。

111 < ◆lQipvWLods 2005/04/15(金) 17:12:31 ID:ILf2i83w0
橋の裏側、丁度外灯と外灯の間辺りに、黒い襤褸切れみたいなものが視界に入った。
何かが引っかかっていると思ったが、橋の裏側に張り付くようにして、四本足?を動かしている様に見える。
掴む所もなさそうなのに、ゆっくりであるが動いており、異様に長い紐のような物が水面に向かって伸びたり縮んだりしている。
オレは蜘蛛かカメレオンを連想した。
その下には、数人の人影が見える。
そいつ等に向かって紐?が伸びるのが見えた時、咄嗟に叫んだ。
「そ こ か ら 離 れ ろ ! ! 」
オレの声に反応したのは一番近くにいた奴だけで、残りは胡散臭げにこちらを一瞥しただけだった。
しかし、その襤褸切れはこちらに気がついた様だ。
目玉のない黒い穴がこちらを見据えた、と感じた。
首を擡げて、黒い頭をこちらに向ける。
月明かりの下にその姿が晒され、肝試しの連中は硬直したように動かなくなった。
あの目だ・・。
オレは膝が抜けて足が全く動かなってしまった。
友人もガタガタ震えてオレにしがみ付くから、余計動けない。
襤褸切れがゴキブリの様に橋脚を降りてくる。
四つん這いで、音も聞こえないのにこっちに向かって来るのが判った。
オレは重心をずらし、わざと足を滑らせて友人ごと土手から民家のある方に転がり落ちた。
そうする以外に無かった。
あのままでは確実に捕まる気がしたのだ。
木々にぶつかりながら、5mぐらい転がり落ちると民家の裏の勝手口にぶつかる。
次いで、明かりがつき住人がびっくりしたようにこちらを見る
助かった
そう思って土手の方を見ると、奴がいた
真っ黒い眼窩をこちらに向けて、舌なめずりする様に(紐と思ったのは舌だった)こちらをねめつける。
オレは意味不明の声を発しながら、友人と共にこの家に転がり込む。
当然、警察を呼ばれた。

112 < ◆lQipvWLods 2005/04/15(金) 17:13:08 ID:ILf2i83w0
オレと友人は誰かに追いかけられて逃げ込んだと言い訳した。
あんな話など誰が信じてくれる?
だが、警察は思わぬ事を言った。
あれから、あの辺りを調べると橋の近くで2人の”遺体の一部”が発見された・・・と。
又、一人が近くの草むらで心神喪失状態で発見された・・。
警察では、さすがにオレ達を犯人とは思っていないようだが、犯人の手がかりが欲しいと言うことだ。
夢だったというオレの望みはこの時絶たれた。
あの襤褸切れがやったんだ。
幽霊なんて信じないオレでも、あの橋の近くには二度と近づくべきではないと言うのが理解できる。
本当にそんな奴が居るのかどうかなんて、もう一度試す気なんてなかった。
一気に2人が死亡した事で、この橋には誰も近づかなくなった。
肝試しをするには余りにもその記憶が新しすぎるのだろう。

オレはその後、この町を引っ越したが、今でも偶に友人と連絡を取ることがある。
あれから2年が経ち、あの辺りではあれ以降、行方不明者は出ていないと言う事だ。
結局、見間違いだったと言う事なんだろうか?
少なくとも、オレと友人の間では其れで決着していた。
深夜と言う事もあり、仕事帰りの車を運転しながら荒川を渡っている時、昔の記憶を思い出していた。

113 < 2005/04/15(金) 17:14:28 ID:ILf2i83w0
すいた橋を走行中、対向車線からやって来る車の屋根に何気なく視線が行く。
目が奪われ、思わずハンドル操作を誤りそうになった。
一瞬、目が合った
目玉のない、黒い眼窩と。
思いっきりクラクションを鳴らしながら擦れ違う。
次の瞬間、橋の下のほうから水音が聞こえる。
オレは急ブレーキをかけて停車するが、車の外には出る事ができなかった。
あの車はオレが煽ったとでも思ったのか、うるさくクラクションを鳴らしながら走り去っていく。
ガタガタと寒気が襲って来るのを感じていた。
あの目、あの目玉のない黒い穴のような眼窩。
オレ達が見たのは正にあれだった。
鮮明に記憶が蘇ってくる。
同時に聞こえるはずの無い、カサカサと言うような音を”感じた”気がする。
オレは無我夢中でアクセルを踏み込むと、車を発進させる。
一刻も早くこの場を離れたかった。
直線である事と、深夜であると言う条件が無ければ、オレはきっと事故っていただろう。
ネズミ捕りの警察が、目の前に現れるまでオレはずっと闇の世界で追いかけられている気がしていた。
赤色灯を見て不覚にも涙が出る。
警官にかなり怒られたが、それでも良かった。

その後、オレはあの橋には行っていない。
深夜に橋を通る気はしないし、友人にもあの橋を通るなと言っておいた。勿論、深夜に橋に近づくなとも・・。

あの奇妙な襤褸切れは、今もあの橋の下に巣食っているのだろうか。
それとも、誰かの車の上に載って移動してしまったのだろうか?
オレはもう二度と、夜の川沿いの散歩は出来そうもなかった。

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