洒落怖超まとめ

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病院

   

211 本当にあった怖い名無し sage 04/08/22 10:18 ID:OwG+RZn3

病院は、案外退屈だったりする。

八年間見続けた天井は、何年経っても変わらない。
病院だって、祭ぐらいやってくれてもいいんじゃないか?
俺の病気についても『まだ治りませんね、退院できません』それだけだ。
『本当に、病院から抜け出してやろうか』。
そう思ったのは、確か三年目だったっけか。はっ、笑っちまうな。
けれど俺が大人しくしてる理由。それは、実に明確だ。

「森さん、入りますよ」

212 病院2 sage 04/08/22 10:20 ID:OwG+RZn3
俄然に部屋の空気が変わる。
真っ白な肌、健康的な歯。大きな目に、小さく可愛らしい唇。
俺は、この看護婦に惚れている。
「ああ、尾藤さんですか。お疲れ様です。
 …まだ、仕事忙しいですか?」
「残念ながら」
すいませんね、と笑った。…なんて美しい笑顔。
心の底から湧き上がるような笑顔、そんな笑顔なのだろう。
ああ、俺、これも合わせて何回笑顔って言ったかな? はい、正解は四回。
「落ち着いたら、すぐに伺いますから。待っててくださいね」
そう言うと、俺の首筋をゆっくりとなぞった。白く細く、とても綺麗な人差し指で。
そして、紅くふっくらとした唇が、俺の首筋に重なった。

214 病院3 sage 04/08/22 10:21 ID:OwG+RZn3
ぞくり。
感覚が伝わる。首筋から、体全体まで、波打つように。
「…しました?」
「いいえ。今やったら、後々面倒臭いことになりますから…やってませんよ。
 大丈夫です。やるのは、夜だけなんですからね? ちゃんと、覚えましょうよ」
「はい、わかってます。…あと、楽しみにしてますね」
なんだか、ガキの頃、好きな先生に気付いてもらいたくって、いたずらしたっけなぁ。
それで、怒られるときの、あの感じ…そう、あの感じがする。
尾藤さんは、またにっこりと笑った。
白い歯が、光った。
216 病院4 sage 04/08/22 10:23 ID:OwG+RZn3
夜だ。
看護婦が、電気を消したりテレビを消したり…見回りに来る時間帯。
そして、退屈に一日を過ごしている俺の、唯一のお待ちかねタイムでもある。
…窓、人影。紛れも無く、俺の惚れている尾藤さんだ。

「こんばんは。先に言っときますけど…みんな、私はもう帰ってると思ってますので。
 心配しなくて大丈夫ですよ」
「ああ、ご苦労様、尾藤さん。すいませんね、手間かけちゃって。
 …それで、牙は? 調子いいですか? いいならすぐ始めたいんですけど」
「ええ、万全ですよ。ほら、全然欠けてない」
いーっと言いながら、その白い牙を見せられる。
いつもは歯と変わらない。けれど、こんな状況になると、尖って『牙』になるのである。
もちろん、初めて知ったときは驚いた。今はそれが愉しいと思っているのだが。
俺が告白したとき、事実を本人から知らされたのだ。あれほどショックを受けた事は無い。

いろいろごめんなさい…!

220 病院5 sage 04/08/22 10:33 ID:OwG+RZn3
「それじゃ、いいですか? 痛かったらごめんなさいね」
かぷり。
尾藤さんが噛んだ部分に、俺の血が流れる。…うむ、赤くて健康的な血だ。
痛みなんて感じない。感じるとしても、指に針が刺さるぐらいだ。
それに、この血は尾藤さん奉げているものなのだから。
「ああ、森さんの血って…ほんと、綺麗。
 新鮮で好いわ、すっごく美味しい」
「そういってくれると…その、嬉しいです」
なんだか照れるなぁ。血でも何でも、褒められてる訳だし。
白く光る牙に、俺の血が入り込む。牙だけじゃない。
顔、手、髪…すべてに、血がまとわりつくように。
必然か。尾藤さんは、血で出来ているんだから。

221 病院6 sage 04/08/22 10:35 ID:OwG+RZn3
「…っふ、ほんとよかった…。
 いつも有難う、森さん。大好きですよ」
「いえ…満足していただければ、それで、良いですからっ…」
「ふふ、照れちゃって」
尾藤さんは、いつもと違う笑い方。可笑しそうに笑った。
けどすぐに元に戻り、またよろしくおねがいしますね、そう美しい笑いを浮かべた。
その顔で、尾藤さんは去った。
「大好きです、尾藤さん…」
俺は、そう呟くぐらいしかなかった。

222 病院終 sage 04/08/22 10:38 ID:OwG+RZn3
…パタン。
非常に弱く、限りなく音を出さないように、扉を閉めた時の音。
しかし、彼女の指は震えていた。怒りによって。

「…っはー、あんのバツイチ野郎…」
扉を完全に閉めると、すこし息苦しそうに呟いた。
「大体なんだ、あの体! 太りすぎなんだよ…
 あいつのドロドロの血なんて、欲しくも無い」
口の中にまだ残っていた、彼の血を吐いた。
そして、しばらくすると、表情がぱっと明るくなった。
「次は若い子だからいいけど。
 さ、血をもらいましょ。私の体が崩れない内に…」

彼女は、そう呟くと、愉しそうに笑った。
この病院の男性患者、あと数年は退院しなさそうだ。
                        >>終

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