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選ばれた施設

   

3811/4 sage New! 2010/09/01(水) 11:01:16 ID:xN+Ow1Qj0

用があって、家族と一緒にとある施設に行っていた。
ごく普通に楽しんでいたときいきなり館内放送が鳴り出した。
『ご来場中の皆様へ。この施設は、選ばれました。
つきましては皆様にご協力をお願い致します。
尚、協力しないということはできませんので、スムーズに行うため、
暴れずに係員の指示に従ってください』
やけに無機質な女の声だった。
聞いているうちに私たちは、何かがおかしいということに気がつき、
心臓が鷲づかみされているような恐怖を覚え始めた。
選ばれたって何だ?拒否ができないって?このやけに冷たい声は?
暴れることを想定している、このアナウンスは一体…?

放送がまだ終わらないうち、遠くから叫び声が聞こえ始めた。
うわっ、と短く叫ぶ男もいれば、キャアアアーとドラマのように綺麗な悲鳴を上げる女もいる。
うあーーっと低く叫ぶ男もいた。
それから間を置かず、破るように扉を開けて異様な男たちが入ってきた。
何というのだか…名前は知らないが、よく漫画で出るような全身防護服を
身につけ、何人もが駆け寄ってきている。
奥ではその男たちに捕まって暴れている人々が見えた。
彼らは銃などは持っていなかったが、物凄い力で私たちを羽交い締めにした。
暴れる者、泣き叫ぶ者も多く私の家族も恐怖に泣いていたが、
私はそのとき既に、暴れても無駄なのだという気持ちになっていた。
何が起きるのか分からない恐怖に早くも麻痺してしまっていたのかもしれない。
更に奥から、看護師のような女が、緊急患者用の寝台らしきものを走りつつ押してきて、
私たちはそこに寝かせられた。
そのままどこか遠くに連れて行かれた。

3822/5 sage New! 2010/09/01(水) 11:04:13 ID:xN+Ow1Qj0

途中までは叫び声や泣き声、殴るような音やガラガラというキャスターの音がしていたのだが、
ある部屋に入るととても静かになった。
「では、降りてください」。丁寧な口調で看護師らしき女が言う。
そして私たちは見てしまった。
広い一室に、私たちと同じくキャスターに乗せられた人々が、すし詰め状態で並べられていたのだ。
その姿はまるで芋虫だった。手足を切り取られていたなどという残虐な意味ではない。
色とりどりの寝袋のようなものに入れられていたのである。
(先ほどから、「ような」「らしい」ばかりで漠然としてしまっているが、
正式名称も知らなければ調べる気も起きないのだから仕方がない)
その寝袋らしきものは手だけを出せるようになっていた。
しかし身動きをさせないためなのか、ぐるぐるとテープで全身を巻いており、
その上、目隠しまでついていた。自由になるのは手と口だけ。
けれど喋っているものは少なく、ううう、うう、と呻いて
台の上でがむしゃらに転がるばかり。
無論全員が呻いているわけではなく、嗚咽するものや叱責を受けているもの、
小さく冷たい喋り声(これは、奴らの声だ)もたくさん聞こえてきた。
ともかく芋虫状態にされた人々が、低く呻き、ごろごろと無様に暴れ回っている…
その光景は私に深い恐怖と、そして自分もこれからこうなるのだという絶望を感じさせた。
大勢の人間が必死で暴れているのだ。今思っても、とても恐ろしい光景だった。

3833/5 sage New! 2010/09/01(水) 11:05:18 ID:xN+Ow1Qj0

この部屋にはもう一つの特徴があった。
それは手術着のようなものを着た人々が、かなりの人数いたことである。
そして人々の傍にはテーブル。その上には大量のボウル。中身を私は見てしまった。
ボウルは大量に並んでいたが、一列あたりの個数は三つと、きっちり分けられていた。
そして時折、板が立てかけられて、「Aクラス」「Cクラス」などと書いてある。
Cクラスの中を私は見た。うち一つには、細切れにしたワカメのようなもの。
その手前には、乾燥した葉っぱのようなもの。
隣にはたっぷりの水で浸した、肉の切れ端のようなものがボウルの中にあった。
その奥のボウルに入っているものは……明らかに、舌だった。
私は悟ってしまった。ボウルには、同じ『食材』を違う風に調理したものが
三つずつ入っている。その隣にはまた、違う『食材』の料理が三つ並んでいる。
これを今から食べさせられるのだと。
文字に起こしてみれば長いが、私はこれらの光景を一瞬で見た。
家族も同様だった。わっ、と二人が崩れるように泣き出し、
その寸前で奴らに腕を掴まれ、立たされた。

抵抗することもできずに寝袋のようなものに入れられ、再び台に寝転ばされて、
目隠しをさせられた。今にして思えば、この目隠しは恐怖を和らげるためのものだったのだろう。
暴れる気は起きなかった。
そうしたところで無駄だというのは、これまでに見た音や光景で分かっていた。
抵抗をすれば暴力で抑えられ、そして結局、無理矢理に食べさせられるのだ。結果は変わらない。
私たち家族の台が引かれていき、どこか奥へ連れて行かれる。
幸運なのは家族三人で並んだことだった。それから説明がされた。
丁寧で冷たい話し方だったが、要約するとこうだった。
「食糧不足に備え、人体を食べるという計画を国家で密かに行っている。
今から、ボウルに入った料理を9つ(縦3×横3で9)食べていただく。
尚、この計画は絶対に機密である。万一洩らした場合には、
あなたも聞いた相手も、その家族たちも専用の施設へ行くことになるので、覚悟せよ」

3844/5 sage New! 2010/09/01(水) 11:06:43 ID:xN+Ow1Qj0

どうやら説明役と記録役がいるらしく、説明役はグループ全体に説明を行い、
記録役が一人一人に実際に食べる手助けと、その感想の記録をするらしかった。
説明役はいかにもお役人という雰囲気だったが、記録係は違った。
実際に調理を行った人たちらしく『給食のおばちゃん』的なムードだ。
「見えないから大変だろうけど、私たちが手伝うからねえ~。
食べやすいから安心してっ!さ、始めましょ。一般の人はCランクが限界かな…。うん、Cにしよ」。
冷静に思えばあんな場面でフレンドリーというのは逆に恐ろしいのかもしれないが、
恐怖していた私には唯一の味方にすら思えるほどだった。

「この辺から始めましょ」と記録係が私の手を引っ張り、ボウルに触れさせる。
硬く細いものが手に当たった。一番始めに見た、細切りのワカメのようなものだと分かった。
それを口まで運ばれる。抵抗しても無駄と分かっていたので私は口を付けた。
隣で家族が、「ひっ、ひいぃ~ん」というぐしゃぐしゃの泣き方をしていた。
もう一人(とても我慢強く、芯がしっかりしている)も
「お願いだから勘弁してえ…、勘弁してええ……」と凄く悲痛な声で泣いていた。
私は抵抗をしたところで無駄、それどころか殴られるということを知っていた。
だから恐ろしくとも抵抗を見せず、そのワカメを食べた。
しかしこれはどの部位なのだろうと思うと恐ろしく、ほんの少ししか食べられなかった。
それも一噛み、二噛み、三噛みが精一杯。捨てる場所もないので私はすぐに吐き出した。
「どうだった?」
記録係のおばちゃんが聞いてくる。どうやらほんの一口でもいいらしい。
「どの部位かと思うと怖くて食べられません…。薄味でした」
「ふんふん。じゃあ次、こっちね」
サラサラと書いておばちゃんが、次のものを食べさせる。
私はまた少しだけ食べて吐き出した。
必死だった。ひい~ん、ひい~んと泣く家族のことなど気にしていられなかった。

3855/5 sage New! 2010/09/01(水) 11:13:09 ID:xN+Ow1Qj0

最後の三つは舌だった。一つめはカリカリに揚げた、スナック菓子的なもの。
二つめと三つめは生ハムのようなものと、舌そのままなんじゃないか?というようなものだった。
しかし舌だと思うと恐ろしくて飲み込めない。
噛むたびに吐きそうな気持ちの悪さに襲われた。
舌を食べるあの感触…。何とも言えない。
少しは食べなくてはと思い噛みきろうとしたが、力を入れても切れなかった。
なので諦めて、はむはむと噛むだけにした。というよりも『しゃぶる』かもしれない。
始めは味がしたけども次第にぬるぬるとするだけになって…。私は吐き出した。
「どうだった?おいしかったでしょ!」
「とても噛み切れませんよ。食べられる人いるんですか?あれ」
「あははっ、今度聞いてみるわ」
これで最後だと思ったからか、ちょっとした雑談をする余裕すらできていた。
家族もほぼ同時に食べ終わったらしく、係の者に
「以上で終わりです。お疲れさまでした」と言われ、
「うっ…うっうっ、うあぁ~ん」と大声で泣いている。

おばちゃんが私の最後の感想を記録する。これでやっと帰れる…。そう思った。
すると誰かが近づいてくる気配がして、おばちゃんと何事か話し始めた。
しばらくヒソヒソと何か言ったあと、「ん、分かった」とおばちゃん。
そしておばちゃんは言ったのだった。
「あなた、冷静に食べてたわね~。ここに来るときも落ち着いてたんだって?
だから、このままAクラス、いってみよっか!」

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