洒落怖超まとめ

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階段2

   

856 名前: 投稿日:03/04/25 19:34
いつものように道路脇に座っていると、2歳くらいの男の子がわんわん泣きながら歩いてきた。
あっ、この子・・・と思って立ち上がると、びっくりして泣き止んでわたしを見た。
わたしの服が破れてるし、怪我だらけだから驚いたみたいだけど、多分久しぶりに『自分のことが見える』人に出会ったのだろう。
おずおずと、わたしに近づいて来た。

喋れるのが単語ばかりで文章にならないので、会話をするのに苦労したけど、その子が『たくみ』という名前なこと、『ダンダン』から落ちて死んだらしいことがわかった。
手をつないで歩いて行くと商店街の裏に出た。地下の飲食店街につながっている階段のところでたくみくんはまた泣き出した。
ここの『階段』から落ちたのか・・・・・
たくみくんがギュッとわたしの手を握ると、階段の下でうつ伏せに倒れている小さなたくみくんが見えた。
そして階段の上に高校生の男子が呆然と立っているのが見えた。
たくみくんの死んだ時の状況だった。
たくみくんの想念が強すぎて、現実のように現場を再現しているのだった。

857 名前: 投稿日:03/04/25 19:35
突然死んでしまったたくみくんの悲しさや辛さが、わたしの心にしみこんで来た。
どうやら思いがけない事故だったようだが、たくみくんの心は『イヤ』『キライ』というその高校生への憎悪でふくれあがっていた。
わたしも、わたしの死んだ時のことを思い出した。
道路脇を歩いていたら、突然後ろからきたワゴン車に当てられ、倒れて半分気を失っていると車に担ぎこまれ、そのまま山奥に連れていかれて乱暴され、そして崖から突き落とされた。
それ以来わたしは、崖から這い上がり、山道から歩いていた道路まで移動して、わたしを殺したやつらを探し続けている。
だけどわたしには見つけられない。
現実でも、わたしは行方不明のまま、死体も見つけてもらえないままだ。
「たくみくん、力をかしてあげるよ」
この子の想念の強さなら、もしかして相手に接触出来るんじゃないかと思った。

858 名前: 投稿日:03/04/25 19:36
たくみくんは幼いせいか、『キライ』という気持ちへの集中が凄くて、相手に触れることが出来た。
階段を相手が降りようとした時、おもいきりぶつかれと言った。
たくみくんは泣きながらあの高校生にぶつかっていったが、相手は一瞬よろめくだけで、ダメージを与えられない。
そのうち、なにかおかしい、と気付いたらしくその男は焦ったように早足で歩き出した。
わたしとたくみくんは後ろからずっと付いて行った。
歩道橋の上に来た時、たくみくんが
『ままがきた!』
とわたしの手をひっぱった。
30歳前後のショートカットの女性が前から歩いて来た。うなだれてどこか痛々しい雰囲気だ。
『まま、まま』
よちよちとした足取りでたくみくんはその女性の元へ歩いていこうとするが、その女性にたくみくんの姿は見えない。
それよりも、目の前に現れた男子高校生に気付き、女性は目を見開いた。
わたしにはなんとなくわかった。たくみくんの想念が、女性に送られていたのだろう。女性はその高校生を知っていた。
たくみくんが大きな声で叫んだ。
『まま!!このひと!!!』
高校生はぎょっとしたように後ろを振り返り、突然ガムシャラに階段へと走り出した。
たくみくんはフッと揺らぐように移動した。階段を下りようとしたそいつに体ごとぶつかった。
そいつは横向きにグルグルグルグル回転しながら落ちていった。

859 名前: 投稿日:03/04/25 19:37
誰かが救急車を呼び、何十人もの野次馬がそいつを囲んだ。
遠巻きに女性はそれを見ていた。女性の目から涙が次から次へと溢れてきた。
「拓海、いるの・・・・・?」
たくみくんは女性のスカートにすがりついた。
『ままー』
この声には気づかなかった。姿も見えてはいない。
だけどさっきの叫び声は聞こえた。たくみくんの存在に気付いた。
女性は見えないたくみくんに呼びかけた。
「拓海、仕返しはしちゃだめだよ・・・・ママ、拓海がいなくなって淋しい。
悲しいよ。あのお兄ちゃんのせいなんだったら、本当につらいよ・・・・でも仕返ししちゃだめなの」
言いながら彼女の頬を幾粒も涙が落ちた。
「拓海、毎日楽しかったね。拓海、大好きだよ」
たくみくんの目からも涙が零れ落ちた。

860 名前: 投稿日:03/04/25 19:37
高校生は打撲と捻挫だけで済んだ。
たくみくんと手をつないで病室のドアの前に立った。この中にあいつはいる。
『もういい』
たくみくんはわたしの顔を見上げて言った。
『まま泣いた』
たくみくんはドアのすりガラスにぺたっと手のひらを押し当てた。
たくみくんのマイナスの想念が、お母さんへの強い気持ちに変わっていた。
わたしは複雑な思いでガラスの向こうを見ていた。
気が付くとわたしはたくみくんの手を握っていなかった。
たくみくんは消えていた。

だけどわたしには無理だ。
納得出来なかった。母親の涙を見たから、余計に。
わたしが代わりに成し遂げてあげたい。
今度あいつが階段に近づいたら、わたしが押す。

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