洒落怖超まとめ

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せこい

   

872田畑2022/03/04(金) 15:04:28.50ID:CSdVvYnb0
うちの父方の実家がある地域は、奇妙な伝承やら体験談が多い。俺も変な体験をすることが度々あった。そのうちの一つを語らせてくれ。

中一の夏休み、俺は一人で父方の実家に遊びに行った。

一週間滞在する予定だったが、ド田舎で過ごすのは暇で暇で仕方がなかった。
子供というのは暇になるとロクなことを思いつかない。俺はふと、祖父母から常々「言ってはいけない」と言い含められていたとある林道のことを思い出した。

873田畑2022/03/04(金) 15:05:09.56ID:CSdVvYnb0
行ってはならない理由を尋ねても「どうしても」の一点張りで理由を話してくれない。
俺は祖父母に黙ってこの林道に行ってみることにした。

土砂崩れやら倒木の危険性があったり、猟の邪魔になるからだろう、と高を括っていたからオカルティックなものに対する警戒心は皆無だった。だから気付けなかった。

昼食後、外に言ってくると祖父母に言い残して林道へ向う。
家の前の一本道を2km程いったところに林道の入口はあった。

林道に入ると、真夏の日差しが木々に遮られひんやりと心地が良かった。
しばらく進むと、道の両端にある木々から太い綱のようなものが渡してあり、それ以上侵入出来ないようになっていた。

普通、ロープとか規制線で立ち入り禁止を知らせるのでは?と綱を不審に思ったものの「まぁ田舎だしお手製なのかな」くらいに深くは考えなかった。
俺は綱をくぐって更に先へと進んで行った。

874田畑2022/03/04(金) 15:05:49.24ID:CSdVvYnb0
それからかなり歩いた後、俺は遠く前方が開けており、奥に何か建物があるのを見付けた。

目を凝らして見てみると、どうやらそれは神社のようだった。
規模は小さめで、賽銭箱らしき物も見当たらないが、林道の終点付近に立っている鳥居と、お参りの時に鳴らす鈴が確認できた。

と、ふいに拝殿の襖が開き、建物から誰かが出てくるのが見えた。
咄嗟にヤバい、見付かる!と思って道脇の林に隠れた。

隠れながら様子を窺っていると、建物から出てきた人物は男性らしく、やけに姿勢が悪い上に歩き方がフラフラと安定していない。
服装も妙で、ハッキリとは見えないが洋服ではなく和装(時代劇で農民とかが着てそうな質素なもの)っぽいのを着てた。

何をしてるんだ、もう少し近付いてみるか…と思ったその時

「せこいん?」

近くで話しかけられ俺が振り向くと、そこには小学生くらいの女の子が立っていた。
近付いてきたのに全く気が付かなかったので、腰を抜かすほど驚いたが、相手が子供であったから怒られる心配はないと若干ホッとした。

875田畑2022/03/04(金) 15:06:20.91ID:CSdVvYnb0
女の子をよく見ると、これまた妙な格好をしていた。
髪の毛は無造作に切られたパッツン髪でしかもボサボサ、服も薄茶色っぽい麻?のような素材でできた簡易的なものだった。

俺が女の子の異様な出で立ちに引き気味でいると、再び彼女は口を開いた。

「ね、せこい?」

他の地域はどうか分からないけど、俺の住んでる所ではこい」は「ずるい」って意味で通ってる。
俺は女の子が「ずるい?」と聞いてくるので訳が分からずに

「え、何が?」

と聞き返した。

876田畑2022/03/04(金) 15:06:49.49ID:CSdVvYnb0
女の子は俺の言葉にしばらくキョトンとした顔で俺をまじまじ見つめた後……突然満面の笑みを作った。


「せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?せこい?」

壊れたかのように「せこい」と繰り返し始めた女の子に最初は困惑したものの、段々と恐ろしさが湧き上がってきた。

877田畑2022/03/04(金) 15:07:14.59ID:CSdVvYnb0
「ごめんね、俺もう行くけん」

尚も「せこい」を繰り返す女の子を置き去りに、俺は全速力で林道を引き返した。神社にいた男性にバレるかも、なんてことはどうでも良くなっていた。

綱のところまで戻った俺はようやく後ろを振り返ることができた。
誰も着いて来ていないことが分かり安堵すると同時に、俺は綱を見てハッとした。

これ、いわゆる「しめ縄」じゃないか?

等間隔でぶら下がってる変な装飾?みたいなのが無くなってたから分からなかったが、太さも形状もしめ縄のそれだった。
先程、鳥居に掛かっていたしめ縄を見たから気が付くことができた。

また恐ろしさが込み上げてきて、俺はしめ縄をくぐると、一目散に祖父母宅へと帰った。

878田畑2022/03/04(金) 15:07:44.08ID:CSdVvYnb0
その日の夜、俺は高熱を出した。
40度を超える熱を出したのはあの一度きりだ。

高熱のせいか、俺は幻覚を見た。
寝泊まりしている部屋の中に、貧相な身なりの沢山の人がなだれ込んできて、口々に俺に喚き立ててくる。
今や何て言われたのか全部は覚えてないが、「せこい」「〜やるけぇな」の二つはハッキリ耳に残ってる。

それから3日間うなされた後、俺は何とか回復した。予定の一週間は過ぎており、滞在は九日目になっていた。
帰りは親が車で迎えに来てくれた。

879田畑2022/03/04(金) 15:08:48.43ID:CSdVvYnb0
帰る直前、爺さんに「○君、林道行ったな?」と言われたので素直に白状すると、ある昔話をしてくれた。

この地域では大昔、流行病が蔓延したらしい。当時は治療の手立ても少なく、次々と人々が倒れていった。
そこで住民たちは、感染者を隔離して封じ込めを行うことにした。
その隔離先になったのが、林道の先にあった神社だそうだ。
感染者たちはロクな食事も与えられず、狭い拝殿の中で苦しみ亡くなっていったのだとか。
やがて流行病は収束し、感染者らの遺体も供養されたのだが……それ以来林道を通る者が謎の病に侵される事案が多発した。
住民たちは「犠牲者の怨念だ」と恐れ、林道は立ち入りが禁止されることになったそうだ。

俺があの時見た男性と少女は、犠牲者の亡霊だったのか、生きた人間だったのか、あるいは幻だったのか。
幸い今は特に不自由なく生活しているが、時折思い出しては嫌な気分になる。

880田畑2022/03/04(金) 15:09:14.43ID:CSdVvYnb0
最後になるが、爺さんの地域の方言で「せこい」は「つらい」という意味らしい。つまりあの時、少女は俺にこう訪ねてたんだ。



「つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?つらい?」

以上、長くなってスマン

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