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土蔵

   

284 名前:さたな 投稿日:03/01/31 00:58
北大阪のM市に住む大塚さんの話である。
大塚さんは、四、五歳くらいになるまでよく、母親に連れられて
今は人手に渡ってしまっている“おばあちゃんのお家”に行っていた。
その“おばあちゃんのお家”に関する記憶で、大塚さんに強く残って
いるのはどういうわけか次のようなものである。
“おばあちゃんのお家”には、土蔵があった。
ほの白い、ぶあつい壁のそれは立派な土蔵で、母屋からはずいぶん
離れていた。
大塚さんもよくその土蔵のそばで遊んだりしたのだが、どういう
わけかおばあさんは大塚さんがそうすることを喜ばなかった。
というよりも、遊んでいるところを見つかると、いつも大目玉を食って
いたのである。
「**ちゃん、遊ぶなら前栽か、おうちの中でお遊び。いいかい。ここで
遊んじゃだめだよ」
そういった意味のお小言を、何度も言われた大塚さんである。
それにしても、蔵の中ならばともかく、蔵のまわりさえ近づいてはいけない
とはどういうことなのか?
危ない、近づいてはいけないというなら、井戸のまわりの方が先にくる
のではないだろうか?

285 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/01/31 00:59
ともかく、子供というものはダメといわれるとよけいにそれをやりたく
なるものだ。
蔵の入り口にはいつも頑丈な鍵がかかっていたが、一度だけどうしたものか、
その入り口が細く開いていたことがあった。
もちろん、大塚さんがそれを見逃すはずはなかった。
(探検だ!)
小さな窓からなんとか光が入ってくるだけの蔵の中は、湿気ていて、ホコリ
っぽく、独特の臭いがした。
想像とは違って、ほとんど何もない。がらんとしている。
ただ、二階へと通じる急な階段が、入り口からすぐはじまっていたのが
大塚さんの興味を誘った。

ぎいっ。
みしっ。
ぎぎい~っ。
みし~っ。

歩く度に板が軋んで、いかにもあぶなげだった。
(なあ~んだ)

286 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/01/31 00:59
二階も一階とそれほど変わらない。
やっぱりほとんど物は見当たらなかった。
大塚さんは、少しがっかりした。
歩く度にホコリが舞い上がって、かすかに差し込む陽光がいくつもの光の
カーテンをつくっていた。
目を引くものといえば、それくらいのものだった。
もっとホコリを舞い上げようとっして、汚れるのもかまわずにバタバタ
走りまわっていた大塚さんが、何かにぶつかったのはその時だった。
(あっ!)
大塚さんは、はねとばされて、その場にしりもちをついた。
それからきょとんとした顔になった。
なぜなら、自分が何にぶつかったのか、ぜんぜんわからなかったからだ。
何しろ、物らしい物がないところなのだから。
そこには、ホコリが静かに漂っているだけだ。
なんいもない。なんにも……。

287 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/01/31 01:00
ミシリ。

しんとした中で、何かが軋む音がした。
大塚さんの背後だ。
階段からだ。
誰かが階段の板を踏んでいる……?
(おばあちゃん?)
大塚さんは、反射的にそう思った。
たった今ぶつかったものも気になったけれど、土蔵に入り込んでいる
ところを見つけられて、叱られるということの方がもっと気になった。
で、なかば首をすくめながらそちらに振り返った。
顔が、そこにあった。
大塚さんの知らないおばさんが---たぶん女だったというのだが---
階段の中ほどに立っているらしく、二階の床すれすれに大塚さんをじっと
見つめていた。
顔は、唇あたりから上しか見えない。
このあたりが、ひどくあいまいだが、髪の形も顔の特徴も、ほとんど
大塚さんはおぼえていない。

288 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/01/31 01:00
ただ、その目というのが、いっぱいに見開かれているにもかかわらず、
黒目の部分がほとんどまぶたに隠れてしまっていた。
まったく死んだ魚のようだった。
顔は、すぐにすっと下にひっこんだ。
それっきり二階に上がってもこないし、外に出ていく音もしない。
いきなり、大塚さんは泣きだしていた。
べつだんどこか痛いわけでも、今の知らないおばさんに何をされた
わけでもないのに、とにかく大声で泣いていた。
その声を聞きつけて、母親たちが駆けつけてきたのは間もなくだった。
予想に反して、大塚さんはまり怒られなかった。
ただ、土蔵の中でこういうことがあったというと、母親たちは急に
黙ってしまった。
その夜、大塚さんが座敷で寝ていると、襖の向こうから母親とおばあ
さんが話をする、小さな声が聞こえてきた。


290 名前:終り 投稿日:03/01/31 01:02
「また、開いていたよ。……錠前が落ちていてね。いったい、どうなって
いるのかねえ」

「そうはいっても、アレだけ取り壊していいものかどうか。アレのこと
は、あの人にも言われていたんだけど」

「出入りの**さんが見たときには、白けたニヤニヤ顔のが、薄暗がりの
中に、ぎっしり立っていたというじゃあないか」

「話し声も、だんだんひどくなってくるし」

「私もこの頃じゃあ、すっかり気が弱くなったよ。…母屋のほうにまで
入ってきたらどうしようかと思って、夜は廊下を一人で歩けやしないよ。
このあいだも、もの凄い気配だったんだよ。悲鳴をあげたんだよ」

と、おばあさんが訴えていたのが、妙になまなましく思い出せるという
のである。

292 名前:ほんとの終り 投稿日:03/01/31 01:07
大塚さんが成人する前に、“おばあちゃんのお家”はなくなってしまった。
例の土蔵もそのとき、取り壊されてしまった。
今となっては、大塚さんの体験が何であったのか、あの土蔵には何か
わけがあったのか、親戚も含めて知っている人間は誰もいないようだ。
現在では、“おばあちゃんのお家”があった土地には、どこか誰かの
家が建っている。
しゃれた、洋風住宅だ。
外から見たかぎりでは、ごくふつうの家のように見えるのだが、昔、
土蔵があった場所までふつうかどうかはなんとも言えない。

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