洒落怖超まとめ

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暗い穴

   

211本当にあった怖い名無し2019/09/05(木) 02:45:34.07ID:9nwHgHM40

先日思い立って登山用品を買いました。
無趣味も長年寝かせると極端に働くようです。
とは言え私が山に興味を持ったのは最近の事ではありません。
それはそれ、暫く胸に秘めておいたのですが。
以下は数年前、投稿用に書き貯めていたものです。


地元には標高の低いありふれた山があって、中腹には高台があって夜景を望める。アスファルトで舗装された広場はちょっとしたデートスポットになってる。
その脇の山頂に伸びる道には地肌が覗ける。

電波塔に用のある人間によって踏み均されたものらしく、まばらな地面は人通りの少ない証拠でもあった。学生時分の冒険心をくすぐるものだった。
友人Aと連れだって自転車で出発した。

彼をよく知る仲間の間では軽率(というかアホ)な男として周知されていたが、一方で沖縄人と米兵の間の子のようなハッキリした顔立ちをしていて女子人気が高い。精進言って妬ましい感情もある。なんであいつが。

元気いっぱいだった我々は自転車の重いペダルをまわして、程なく中腹のデートスポットに到着する。
適当な場所に駐車をし草木の茂った小道へ向かう。


やたら大きく錆びた銀色の柵は開いままで、その事は俺が事前に知ってた。
生命力に溢れた森、と言うよりは退廃的な雰囲気が漂ってた。季節は秋。枝や葉が散らかってる。
ただ人の棄てたゴミの類いは見当たらなかったと思う。


勾配は緩く一本道。
ズンズン進む間、俺達は軽口を叩きあってたが何を話したかは覚えてない。
せいぜい往復一時間と踏んで16時くらいに登り始めたんだけど、気が付くと辺りが暗くなってる。バカ丸出しだけど、引き返すという発想は無かった。


知らない人も居るだろうが街頭のない夜は本当に暗い!
木々で遮られて月明かりもない。曇りだったかもしれない。
ライトはなし。当時携帯なんて持ってないから枝を投げて音の具合を確かめて進んだ。


212本当にあった怖い名無し2019/09/05(木) 02:53:09.57ID:9nwHgHM40

崖に近い箇所を何度か確認した。そうとう無謀を今になって呆れる。
A「ここでどっちかが狂ったら怖いよな」
おいおい辞めろよと小突きつつ想像すると鳥肌が立つ。

街では味わったことのない雰囲気に呑まれて、お互いビビっていた。キリのいい所までと暗黙の了解を交わしていた。

運のいい事に(悪いのか?)電波塔に到着すると、周辺が開けている。中腹のデートスポットとは比較にならない美しい夜景に心がリフレッシュした。もうしばらく進もうということになった。

山頂までそう遠くない道のりに思えた事もあった。何せ低い山なので。
一本道、相変わらず黒に近い闇の中、枝や小石を投げつつ進む。
電波塔を過ぎても地肌が見えていた事が不思議だった。
どんくらい経ったか覚えてないけど、冷静に考えればせいぜい一時間そこらだろう。

これ上れんのか?と声をあげた程の垂直に近い、土の壁が現れる。
肩車の下になった俺の手を引き上げるAが「ファイト」「一発」と自分で呼び掛け自分で応じてた。

眼前に、ぽっかりと穴が空いている。
道幅が極端に狭まって、木々の落とす影がそう見せたんだろうが、初めて本物の黒色を見た気がした。
『これはいけない』という予感が走った。体と心が強烈な拒否を示した。

隣を見やるとAが居ない。直後に背後でズダンと音が響いた。
垂直の壁から落下したようだ。
上から声をかけると、激しく痙攣している姿が見えた。

縁に手をかけ、ぶらさがり降りる。
テンカン持ちの同級生を知ってたんで、何か噛ませる物は無いかとポケットを探ったが何もない。Aは呼び掛けに応じないが、次第に痙攣の間隔が狭まっている。

仰向けで倒れた胸をバシバシ叩くと、すくっ!と立ち上がった。けっこう極端な動作だったんで呆気にとられている俺に「さっさと帰ろう」とクールにいい放つA。
こいつやっぱ変わってんなと心の中で呟く。怪我はないとのことだった。

行き同じく下山する。遥かに早い時間で中腹に出る。そっから長い坂道を自転車で滑降。行きと同じく軽口を叩きあい、家路に着くべく別れた。


213本当にあった怖い名無し2019/09/05(木) 02:54:27.32ID:9nwHgHM40

それから数か月後になって、浮かれた様子で「あの山の事なんだけど」と声をかけてきた。
A「山頂付近で人間の身体の一部が見つかった。俺らが引き返した場所に黄色いテープが貼られてる映像をニュースで観た」
俺は適当に返事して流した。
Aの性格は周知だったので。

ただまぁ仮に人を殺したら、あそこに埋めるなりすれば高飛びの時間は稼げるかなと、そんくらいの妄想を膨らませる程度には信憑性がある。凝った嘘だとほくそえんだ。

しばらくしてAは登校拒否を起こした。
苛められるようなキャラではない。特に貧しい家庭でもないはず。仲間とA宅に伺うと「会わせられない」の一点張り。

仲間は首をかしげたが、俺は解る気がしていた。
あの壁の先の暗闇を目にしてからと言うものの、何事もやる気が起きない。
なんか全てが無意味と言うか、どうせ何も無くなるんだって感情に囚われてた。

その事を親に相談すると、塩をばらまかれてお払いに連れてかれた。神社で木の棒に白い紙のヒラヒラが連なった物を頭上で振るわれて、綺麗だなぁって思った。酒を飲まされて、間延びした唄を聞かされた。

以降はスッキリって程じゃないが『それはそれ』という感覚を得た。神主?と親の会話を盗み聞きしたが、気持ちの問題だろうとの事だった。


先日、約二十年後しにAを見かけた。
多分あれはAだと思う。髪はボサボサ、服も靴も泥まみれで急かされるように歩いて行った。
Aは山に通ってるんじゃないかと思う。
かくいう俺も、あの暗い穴の先が気になっている。

頭にこびりついて離れない。身体を震わすAの顔は笑っていた。仮にあの日、俺一人で登っていればどうなっていただろう。思い起こす度に歯噛みしている


転載元:https://mao.5ch.net/test/read.cgi/occult/1566820423/

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