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止まれない

   

787 本当にあった怖い名無し sage New! 2006/12/05(火) 12:56:18 ID:tEgUXKXS0

彼と出会ったのは中学生のときだ。身長は僕と同じくらいだが、やけに細くて頼りない感じだった。
彼は体育の時間になるといつも見学だ。教師も了解しているようで、特に何も言わない。
ワケありなのか・・・ 僕は思いきって彼に直接聞いてみた。「どうしていつも見学なんだ?、怪我でも
してるのか?」 すると彼は笑いながらこう答えた「走り出すとなかなか止まらなくてね・・・」
意味が分からなかったが、「へー」と言って納得してみせた。

高校は別々で彼のことはすっかり忘れていたが、ある日、新聞で彼の名前を見つけた。
なんと高校生男子1万メートルの県記録を作ったらしいのだ。「凄いじゃないか」、僕はぜひ祝福したいと
彼の高校に向かった。陸上部はちょうど練習中で、僕はこっそり見学させてもらった。彼は走っていた、
ずっと走っていた。いつまで走るのか・・・
「よーし 止めてやれ」小太りの男がそう声を出した。2、3人がかりでようやく止める。
「大丈夫なのか?」 僕は彼のもとへ急いだ。意識がもうろうとしているようだ。
僕は小太りの男につめ寄った。「どういう事だ。こんなになるまで走らせて!」
小太りの男は何も言わず去っていった。意識が戻った彼に「どうしたんだ 説明してくれ」と聞いたが
「大丈夫、大丈夫」の一点張りだ。

僕は社会人になった。彼はどうしているのだろう・・・ 彼の行方を探偵に捜してもらった。
彼は精神科病院に入院していた。驚いた僕はすぐその病院に向かった。
彼の病室に入った時は本当にショックだった。何も映ってないテレビをただ眺めていた、
もう目が死んでしまっているようだ。足にはそれぞれ3キロほどの重りが付けられていた。
掛ける言葉も無くただ呆然とした僕はお見舞いのフルーツを置いて帰ろうとした。
その時、彼が僕に気づいた。数秒の沈黙の後、彼は僕の方を見つめこう言った。
「ようやく止まることができた」とね。

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