洒落怖超まとめ

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死の場面

   

人間生きてる内に一回は人が死ぬ場面を目撃してしまう、と何かの本で読んだ事がある。
単に病気で息を引き取るとか、天寿を全うしたとか言うのを見取るのではなく、
車に轢かれる瞬間だとか、刺される瞬間だとかを見てしまうと言うことらしい。
それは本当らしい、少なくとも俺にとっては。

5年位前。つまり俺がまだ大学生だった頃の話だ。
その頃の俺は卒業に必要な単位は取り終えてたから、例えでも何でもなく「遊び呆け」てた。
毎日毎晩友人の家を泊まり歩いては酒を飲んで、麻雀打って、カラオケ行って。
今考えると馬鹿以外の何者でもない存在だったよ、その時の俺は。
大学生は暇だと良く言われるけど、そういう奴らの言う典型的な大学生だった訳だ。
俺の家はとあるマンションの一室で、丁度『 コ 』の字型に3つの棟がある構造になっている。
3棟とも10階建てになっていて、栄えてない地元の町では一番高い建造物の一つだった。
自宅の玄関だけじゃなく、棟そのものにも鍵がかかってるタイプのマンション。
防犯のためなのだろうけど、俺にとってはただ面倒臭いだけだった。
まぁともかく、その日も夜中の2時くらいまで友人宅で飲んで、タクシーで帰ってきた。
ほろ酔い気分で月も綺麗な夜だったのを、妙に細かく覚えてる。
千鳥足、と言うほど足の運びは不確かではなかったけど、
フラフラと棟のドアに近づいて、ポケットから鍵を取り出そうとした瞬間だった。
物凄い轟音がマンション中に響いた。
例えるなら、鉄の壁にトラックが猛スピードで突っ込んだような音だ。
マンションの壁と言う壁が衝撃波を受けてビリビリと震えている感じがした。
しばらく音の残滓が耳から離れなかったけど、音の正体を見極めようと視線を動かした。

それはすぐに見つかった。
俺の後方5メートル、鉄作りの駐輪場の屋根にずっぽりとその体を沈めて、何かがいた。
震える脚を抑えながら近づいて、マンションの明かりに照らされたソレを観察する。
どう見ても人間だった。
虚ろな目をこちらに向けて、かつて人間だった物が落っこちている。
素人目に見ても、明らかに絶命しているのが見て取れた。
風に乗って濃厚な血の匂いが漂ってくる。
俺は近くの排水溝にしこたま吐いて、家に帰って寝た。
まぁそんだけの話。

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