洒落怖超まとめ

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漫画喫茶

   

530 漫画喫茶1 05/02/14 16:21:26 ID:4XxgNCoZ0
あれからもう4年半経つ。当時就活中だったフリーターの俺(今もだが)は
高円寺のとある漫画喫茶の常連で、暇な時間はいつもそこで潰していた。
うだるような外の暑さから逃げるようにいつものようにその店にやってきた俺だが、
その日はやけに混んでいた。俺は飲み物を注文し、なんとか空席を探し出した。
当時の漫画喫茶は、今のいわゆるメディアカフェのように席の一つ一つがボックス
として仕切られて個室になってる事は珍しく、その店もテーブルやカウンターに他の客と
相席するタイプだった。俺は「破壊王ノリタカ」を5冊かテーブルに置き、
メロンソーダを一気にストローで啜り終えると、タバコに火をつけ、1冊を手に取り読み始めた。
冷房の効いた涼しい店内、テーブルのすぐ側の大窓から見える猛暑の繁華街を行く人々、
喉にヒリヒリと快感をもたらすメロンソーダ、当時ブラピが吸ってたLARKマイルドの包み込むような煙、
そして弱者のサクセスストーリーを描いた「破壊王ノリタカ」。
無職貧乏彼女なしの当時の俺(今もだが)にとって、唯一天国の快楽を味わえる時間だった。
しかし次の瞬間、今日は天国の日ではないことに気づかされる。相席の漫画喫茶には常だ。

531 漫画喫茶2 sage 05/02/14 16:23:30 ID:4XxgNCoZ0
相席の男のぬふふふふという笑い声が、極楽の空間を一瞬にして断ち切ったのだ。
何かを集中して読んでる時の外野の声に俺は弱いのだ。何気ない仕草や笑い声でも
集中を維持できなくなってしまう。気にするなと思えば思うほど気にしてしまう。泥沼だ。
男のぬふふふふは止まらない。30秒に1度はぬふふふが聞こえてくる。
俺はわざと苛立った顔をしてこの時初めて相席の人間の顔をまともに覗った。
瞬間、「!!!!!!」俺は我が目を疑った。なんでこいつがここにいるのか!
その男はどこからどう見ても、かの若手ハリウッドスター、クリスチャン・スレーターだったのだ!
少し遅れて俺の脳が一番納得できる答えを導き出し、思考として現れる。
(クリスチャン・スレーターがこの高円寺に住んでいるんだ。俺と同じこの街に。。。)
俺は興奮を抑え切れなかった。いつのまにか灰皿の中のLARKの火はフィルターを焦がし、尽きていた。

532 漫画喫茶3 sage 05/02/14 16:25:06 ID:4XxgNCoZ0
俺は辺りを見回した。カウンター席の客も近くのテーブル席の客も誰一人、クリスチャン・スレーターの
存在に気づいていないようだった。いや気づいていながらあえて黙殺していたのか。
俺はここにクリスチャン・スレーターがいるぞ!と叫びたくなる衝動を抑えながらこの事態の解決法を練った。
まずはクリスチャン・スレーターの観察からはじめた。頭には既に「破壊王ノリタカ」のことなどなかった。
クリスチャン・スレーターは「犬夜叉」という漫画を読みながら相変わらずぬふふふふと笑っていた。
クリスチャン・スレーター側のテーブルには飲み干されて氷だけになったグラスが置かれ、
15冊くらいの犬夜叉単行本が積み上げられていた。クリスチャン・スレーターからは今日のうちに犬夜叉を
読破してやるという気概が感じられた。俺はそこでふと気づく。この店は防犯上そして独占禁止のため、
自分の席に持っていっていいのは一度に五冊までという決まりがあったのだ。それを15冊以上も
テーブルの上に積んでいたらいやでも目立つ。店員が気づいていないはずがない。普通なら注意するはずが、
クリスチャン・スレーターの大胆な横着を野放しにしている。俺はひとつの結論にたどり着く。
(VIP待遇。。。)

533 本当にあった怖い名無し sage 05/02/14 16:26:05 ID:BRXYzQkN0
面白い面白い

534 漫画喫茶4 sage 05/02/14 16:26:27 ID:4XxgNCoZ0
漫画喫茶でのVIP待遇なんていう話は俺は古今東西聞いたことがなかった。
しかし相手はハリウッドスターのクリスチャン・スレーターだ。ありえないという話ではない。
むしろVIP待遇は当然のことであって、犬夜叉を15冊積もうが、クリスチャン・スレーターが
店員に注意されるいわれなどないのだ。俺はいきつけの漫画喫茶の隠された裏サービスを目の当たりにできたこと、
あのクリスチャン・スレーターが俺の天国である空間を分かち合っていること、無職の俺とハリウッドスターが同じ
極楽を共有していることに感激した。涙を流していたかもしれない。
その後4年以上、クリスチャン・スレーターと再会することはなかった。
いまでもその話を友達にしても誰一人信じてくれる人間はいない。家族でさえもだ。
しかし俺の心には死んでも折れないひとつの芯がある。
「2000年7月高円寺、クリスチャン・スレーターは確かに俺の地元に存在した。」
この事実がいまだに無職にあえぐ俺の生きるエネルギーの源となっているのだ。
そして彼の出演する映画を見るたびに、俺の脳裏に彼のぬふふふが浮かんでくるのだ。

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