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霊感の仕組み

   

282本当にあった怖い名無し sage New! 2008/12/29(月) 00:18:26 ID:Z7GR0SwkO


 オカルトには少し興味があるというだけの、ごく普通の大学生だった若き日の俺。そんな俺をオカルトの世界にどっぷりとつからせたのは、俺が師匠と呼ぶ人物だった。
“師匠”とは文字通りオカルト道の師のことで、彼は同じ大学に通うサークルの先輩だった。 師匠は一緒にいる間、たくさんのことを俺に教えてくれた。それはオカルト界ではわりと常識のことだったり、師匠のオリジナル説ではないかと思うようなマイナーな話だったりと様々だったが、師匠は本当に、俺の知らないことばかりを知っている人だった。

だから俺は、師匠が突然姿を消してから長い年月が経った今でも、彼に尊敬と畏怖の念を抱いている。


俺は師匠に教わったことや、師匠との体験談は大体、ネタとしていつかは誰かに話そうと覚えておいた。(それが今になって役立ってるな)



285本当にあった怖い名無し sage New! 2008/12/29(月) 00:36:51 ID:Z7GR0SwkO


でも、今日俺が投下しようとしている話は、最近になって突然思い出したことだ。何気無い会話だったので、忘れてしまっていた。誰かに話すようなことでもないと無意識に思っていたのかもしれない。


あれは、師匠と出会ってから初めての夏だった。
「お前はいつからメガネをかけてる?」

夏になっても普段と何ら変わりない、若者らしくない日常を送っていた僕に、師匠は言った。師匠はその日自分の部屋のTVが壊れたとかいう理由で、僕の家に遊びに来ていた。

「は、メガネですか?」

「そうだよ。あるだろ、生まれつき目が悪い~とか、勉強のし過ぎで~とか」

師匠はTVのリモコンをピ、ピ、と頻りに押しながら補足する。師匠はTVを見に来たという割には特定の番組を見ず、リモコンのボタンを押し続けていた。
「ああ、そういうことですか。うーん。目は小学生のときから段々と…って感じですかね。メガネをかけたのは最近です。昔はすごい目よかったですよ」

僕は師匠の手からリモコンを奪いながら答える。無駄なチャンネル替えは電気代がくう気がした。すると師匠は、リモコンを無くしたことで空いた手を顎に当て、さわさわと撫でながら言った。

300本当にあった怖い名無し sage New! 2008/12/29(月) 09:32:13 ID:Z7GR0SwkO


「そうか。お前は段々下がってきた型か」

「それがどうかしたんですか?」

「例え話だよ。視力ってのは、自分の意思でどうこうできるもんじゃないだろ?」

「はい」

突然何を言ってるんだ?と思ったが、素直に頷いておいた。
「それは霊感・霊能力にも同じことが言えるわけだ」


そう言った師匠の表情はいつもと同じで、やる気を全く感じない顔だった。一方僕はというと、思わぬオカルティな展開にワクワクが止まらなかった。
「よく、みんな言うだろう。『自分は全く霊感0で』というようなことを。だけど、それは勘違いだ。霊感ってのは本来、視力や聴力と同じようにみんな同じくらい持っているもんなんだ」

師匠のその言葉に、僕は考えてみた。確かに、霊感が0というような言い回しはよく聞く。だけど、僕自身霊力なんてそんなものだと思っていた。
「それってつまり…霊感がない人はいないってことですか?」

「…それはちょっとちがう。人にもごくたまに、生まれつき盲目の人がいるだろう。それと一緒で、生まれつき霊感がない人はたまにいる。まぁ、本当に希少だけどな。だから、自分に霊感がないと思っているやつのほとんどは“霊感が弱い”だけなんだ」

「霊感が弱い…」


305本当にあった怖い名無し New! 2008/12/29(月) 09:50:27 ID:Z7GR0SwkO


「しかも、それは大人になるにつれて段々と弱くなっているケースが多い。丁度お前の視力のようにな」

師匠の例えは、非常にわかりやすかった。僕は閃いたことを呟く。

「そっか…。なら、霊感が強い人は、もともとの霊力が劣らなかった人ってことですね」

「そうだ。だからオカルトの世界でよく聞く霊感を強くする方法や裏技ってのは、強くするというより、復活させると言った方が正しいな。子どものうちは霊力が高いから。視力を維持するときや復活させるためには緑色のモノを使用するだろ。それと一緒なわけだ」

「なるほど…」

僕は改めて、この人はすごいなぁなんて思ってしまった。

「じゃあ、霊感が強いことで商売をしている人って、嘘なんですか?」

頭の中には、インチキか本物かもわからない半ばタレントのような霊能力者が浮かぶ。

「それは、ごくまれの盲目の反対ケースだ。アフリカのマサイ族なんかは、昔から狩りをするという環境の中で、視力が異常に発達してるだろ?」

師匠は再び手に取ったTVのリモコンを、クルクル回しながら言った。僕はつい先日、TVでマサイ族の視力は7.0だということを証明した特集を見たばかりだったので、リアルに納得できた。

307本当にあった怖い名無し New! 2008/12/29(月) 10:11:02 ID:Z7GR0SwkO

「霊能力者の仕組みもそれと同じなんだよ。昔から霊と協力しあったり、霊を退治したりしているうちに霊感が発達した家系に生まれたっていうことだな。そういう家系じゃないのに高い霊能力を持つやつは、先祖に霊と隣り合わせの生活をおくっていた奴がいたんだろう」

師匠は言葉を終えると、僕の顔を見てニタリと笑った。

「時に少年。お前は、メガネをかけてるときとそうじゃないときでは、どっちの方がよく見える?」
何て馬鹿げた質問をするのだろうか、と僕は声をあらげた。

「そんなの、メガネをつけてるときに決まってるじゃないですか!」

すると、師匠はますます面白そうにニタニタ笑う。

「じゃあ、俺といるときとそうじゃないときでは、どっちがよく“霊”を見る?」

「!」

そのとき僕は、頭にビリビリしたものが走るのを感じた。師匠はまた話し始める。

「そういうことだ。目が見えづらいときはメガネという別のレンズの力で視力をパワーアップさせる。霊感も、他の強い霊力を借りているうちはパワーアップさせることができる。」

309本当にあった怖い名無し New! 2008/12/29(月) 10:15:00 ID:Z7GR0SwkO

師匠の言葉に、僕は素直に感動した。それは、師匠とつるむようになってから不思議な体験をすることが多くなっているということに気づいていたからかもしれない。

「普段霊を見ない人が霊を見るのは、メガネの役割になる霊能力者が近くにいるときか、霊の力が大きいときだ。目が悪い奴でも、大きな字なら見えるだろ」

「確かにそうですね!」

「霊感の仕組みなんて、その程度だ。視力や聴力…人間の五感とかわりない」

師匠は撫でていた顎を今度はかきながら、説明を続ける。
僕は先ほどからずっと気になっていることを訊いてみた。

「ということは、人間は生まれ持った霊能力以上の力を得ることはできないんですか?」

すると師匠は、やる気のない顔を僕に向けた。

「…視力を失った盲目者が再び視力を得るにはどうしたらいい?」

「!?」

「…腎臓とか肝臓が、病に侵されている奴は、どうやって寿命を伸ばせばいい?」

「………」

師匠の突然な質問に、僕の頭にはひとつのことしか浮かばなかった。

「…移植…?」

自信はなかった。だけど師匠は満足そうな笑みを浮かべる。

「ご名答。霊力は移植できる」

まさかとは思っていたが、本当にまさかな返事に驚く僕。

「そんなことできるわけ……でも、一体誰が、どうやって!?」

あからさまにパニック状態の僕に、師匠は言葉を補足した。

311本当にあった怖い名無し New! 2008/12/29(月) 10:16:38 ID:Z7GR0SwkO

「この世には、どんなものにも専門の医者がいる。外科医、内科医、眼科医…。人間だけじゃなく、動物や機械にだって専門の医者が多くいるんだ。霊能力を扱う医者がいたっておかしくないだろ。まぁ、普通の医者ほど数はいないが」


補足のせいで、僕はますます頭が混乱した。この人の言っていることは、どこまでが本当なのか。(全部本当だったらどうしよう(°д°;;))

「つまり、専門の移植霊能力者を見つけて、強力な霊感を持つドナーを見つければ、誰でも強い霊能力者になれるっつうことだ」

「ドナー?…ってやっぱり、自分の体に合うとか合わないとかってあるんですか?」

「あぁ、ある。霊感移植は、同じ霊能力の性質を持ったドナーからしか移植しちゃいけねえんだ」

淡々と言う師匠。僕はゴクリと唾を飲んだ。

「何故です?」


すると師匠は、スッと指を二本立てた。

「理由は2つある。1つは…あまり自分自身に不都合はないことだが、性格が変わってしまうことだ。魂の質が変わるのと同じことだから仕方ないがな。乱暴になったり、臆病になったりと様々らしい。」

「性格が変わって困るのは周りですね」

僕は呟く。師匠はコクコクと頷いてから、二本の指を一本に変えた。


314本当にあった怖い名無し New! 2008/12/29(月) 10:23:03 ID:Z7GR0SwkO
「そしてもうひとつ…こっちは厄介だ。違う性質の霊力が大量に移植されることで起きる、拒否反応。四六時中強い霊力が垂れ流しになり、悪霊が寄ってくる。

質が異なる霊力と自分の肉体との間にはわずかな隙間ができるから、悪霊がそこに入り込み体を乗っ取ったりもする。

そうすると、犯罪を犯したり挙動不審になったり…精神を病んで、最終的には廃人になる」


僕は、背筋がゾクゾクした。クーラーを消したいくらいに寒かった。でも師匠は構わず続ける。

「でも、性質の移植ミスってのは案外少ない。大抵は移植霊能力者が見分けて止めてくれるからだ。中には、面倒がって止めない奴もいるけどな」


そんな面倒とかいう理由で廃人になる結果になったら、たまったもんじゃない。僕は人間も怖いと思った。

「そういう同じ性質のドナーって、どうやって見付けられるんでしょうね」

「ああ。なんか直感でわかるらしいぞ。あくまで勘だから、間違ってるかもしれねーが」

「直感……」

何て信憑性のない…という言葉を僕は飲み込んだ。師匠はダルそうに言う。

317本当にあった怖い名無し New! 2008/12/29(月) 10:24:40 ID:Z7GR0SwkO

「現に俺も、もう3人、直感で見つけてる」

ダルそうなわりには、サラリとしていた。当然僕は驚く。

「3人も!?まさか…師匠、移植を考えて…?」

「ばーか。そんなことするほど力に飢えちゃいねーよ。金もねーし、第一移植霊能力者にだって会ったことがないしな」


ちょうど師匠がそう言って笑った時、師匠の手で遊ばれていたリモコンのせいで、TVがついた。

その時の番組が、二人とも大好きなバラエティーだったので、霊感の話はそれで終わってしまった。僕自身も、頭の中はTVに侵食されていた。

あの時のことを思い出してみると、やはり師匠は霊感の移植を試みたんじゃないか…と思う。そして、失敗したのだろう。

彼が何故大きな力を得ようとしたのか、誰をドナーにしたのかはわからない。移植霊能力者をどうやって見つけたのかも謎だ。

でも、師匠が初めてあったとき俺をサークルに誘ったのは、俺が同じ霊感性質を持っていると感じたからではないか、と俺は思っている。

まぁ、俺の力は師匠よりも弱いから、同じでも意味はないのだが。



師匠は以前、言っていた。

「一寸先は闇。普通の人間は、普通でいる限り闇の向こうを見ることはできない。だから、人間なんだな」


あの時はさっぱり意味がわからなかったが、今なら少しわかる気がする。師匠は、一か八かの賭けをしてまで、廃人になるというリスクを抱えてまで、闇の向こうを見たかったのかもしれない。



【霊感の仕組み/おわり】

 - Part 204, 洒落怖