洒落怖超まとめ

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靴音

   

438 名前:靴音 投稿日:03/10/24 20:17
ちょっと怖いことがあったので、ここに書かせてもらいます。
少し長くなります。

私はあるビルに勤めています。
そこは4階から下が店舗。
5階が事務所で、6階は倉庫とロッカールームになっています。

私が6階倉庫に誰か居る事に気付いたのは、
今から一年ぐらい前になります。

私は立場上、よく一人で残業をします。
その日もいつものように、5階事務所で机に向かい仕事をしていました。
すると天井から、トトトトトッと軽やかな音が聞こえて来たのです。
それはまるで、幼い子供がたてる靴音のように聞こえました。
私は手を止めるとすぐに6階倉庫へ上がったのですが、そこは真っ暗で、当然誰もいませんでした。
首をかしげつつ、私は事務所に戻りました。

その日を境に、私はその靴音を度々聞くようになったのです。

続く

439 名前:靴音 投稿日:03/10/24 20:18
それはいつも私の上の天井を、背中の方から前へ向かってトトトトトッと駆け抜けます。
まず、倉庫をよく調べてみました。

事務所で聞く音の位置から、倉庫のどこら辺を駆け抜けるかが判断出来ます。
倉庫には高さ180センチの在庫置き用スチール棚が、6列ほど並んでいます。
しかし棚は私の席から見て全部横方向に並んでいるのです。
足音はそこに並ぶ棚を無視して、突っ切る方向に駆け抜けていることになります。
スチール棚を飛び越しているのでしょうか。
それが不思議でした。

また、音の聞こえる時間は大体9時前後でした。
正確に計ったわけではないのですが、音が聞こえて時計を見たときには、
大体針が9時付近を指している事に気が付いていました。
しかし毎日ではありません。どちらかというと、音が聞こえない日の方が多くありました。

そして聞こえるときはいつも一回だけ。
背後から前へ駆け抜ける。いつも一回きりでした。

続く

440 名前:靴音 投稿日:03/10/24 20:20
その日、私はいつも通り一人で残業を終え、その場で帰り支度をしていました。
ここでは基本的に残業はありません。
私以外残る人間はいないので、今まであの音を聞いたのは私だけでした。

しかし私は夜の倉庫が怖いので、皆が帰る時に一緒にロッカールームへ行き、
手荷物を事務所へ持ってきてから残業をするようにしていました。
ひとりで倉庫のロッカールームへは行きたくなかったからです。

私は机の上を軽く片づけ、事務所の電気を落とし、エレベーターで一階に降りました。
一階の配電盤でビルの電気をすべて落とし、出口の鉄扉に向かう途中、
私は忘れ物をしていることに気が付きました。
友人に頼まれて買っておいた商品を、今夜帰りに渡さなければなりません。
それをロッカールームに置きっぱなしであることに気が付いたのです。

仕方ないので私は踵を返すと真っ暗な店内を歩き、エレベーターに再び乗り込みました。
扉が閉まる瞬間、右正面に掛けてある時計が9時付近を指しているのがちらりと見えました。
ちょっと嫌な時間帯です。
そういえば今日はまだあの靴音を聞いていません。
まあ、聞こえない日の方が多いわけだし・・・。
それにさっさと行動すれば大丈夫でしょう。
私は少し不安な気持ちで、移動していく階数表示を眺めていました。

続く

441 名前:靴音 投稿日:03/10/24 20:21
程なくして、エレベーターは6階に到着しました。
扉が開くと、静まり返った倉庫は、エレベーター内部の明かり以外は真っ暗です。

エレベーターの正面は、向こう壁まで通路用に大きく開いています。
左の方にはスチール棚の端が綺麗に並んでいます。
そしてロッカールームの扉は、右奥の壁際に見えています。
明かりのスイッチはロッカールームの脇にあるので、
私はエレベーターの扉をロックすると、そこまで走る事にしました。

しかしエレベーターから体を出したその時、例の靴音が左の方向から聞こえたのです。
私は思わずそちらを見てしまいました。

そこには一番手前のスチール棚に、今まさに突き刺さる子供の後ろ姿がありました。
色ははっきりしませんが、暗い色の上着に、茶色っぽい色をした半ズボン、
それに白い靴下がぼんやりと光って見えたのです。
その子は、あっという間にそのまま棚を突き抜けると、靴音と共に奥の方へ走り去って行きました。
そして辺りはまた静まり返ったのです。

続く

442 名前:靴音 投稿日:03/10/24 20:23
私はあまりの衝撃に、少しの間立ちつくしていました。
音はやはり子供の靴音だったのです。
棚を突き抜けたので幽霊と言って良いでしょう。
でも、どうしてこんな場所に・・・。

私はしばらく躊躇していましたが、勇気を出してロッカールームへ行くことにしました。
とりあえず子供は行ってしまったので大丈夫です。
不思議なもので、走るのをやめてゆっくり歩いていこうと思いました。
走ってしまうと逆に、恐怖が止めどなく押し寄せて来るような、
そんな気がしてならなかったからです。
私は決心しました。

続く

443 名前:靴音 投稿日:03/10/24 20:25
ところがまた靴音が聞こえて来たのです。
どうして?いつもは一回しか聞こえないのに。

それは左奥をトトトトトッと大きく回ってきたかと思うと、スチール棚のかげから走り出ました。

それは幼い男の子でした。
両手をこちらへ差し出し、屈託のない笑顔で私に向かって走って来ました。
その顔は本当に嬉しそうに笑っていました。
そしてその目は私を見ていましたが、私の顔には向いていませんでした。
ただ、笑った口だけは白い歯も見えず、その中は底なしの穴のように真っ暗でした。
実際私は、その口だけが先にせまってくるようにも感じたのです。

続く

445 名前:靴音 投稿日:03/10/24 20:37
私はビクッと小さく飛び上がると、すぐにエレベーターに飛び込み、ロックを外しました。
すぐに扉は閉まりましたが、閉まりきる扉の隙間に男の子の手が入りそうなところでした。
私はエレベーターが下降し始めると、すぐに中腰になって天井を見上げました。
あの子が天井を突き抜けて来るような気がしたからです。
しかしそのようなことはなく、エレベーターは無事に一階へたどり着きました。

私はエレベーターから飛び出すと、一目散に出口の鉄扉まで駆け、それを引き開けました。
そして、あらかじめ握っておいた鍵を差し込むために振り向いたとき、
閉まりつつある鉄扉の向こうに見えたのです。

続く


456 名前:靴音 投稿日:03/10/24 21:02
非常口案内プレートの緑の光に照らされた、店内真ん中のエスカレーター。
その手すりの端に、先ほどの男の子の顔が乗っていました。
何故か体はなくなっていて、そこに乗っているのは頭だけでした。
先ほどとは打って変わった沈んだ表情。
目は伏し目がちに、口は堅く引き結ばれていました。
そして床には青い靴が一組、それが寂しそうにころがっているのが見えました。

私はヒッと口の中で短い悲鳴を上げ、
扉を強く引き押さえながら、ガチャガチャとあわただしく鍵を掛けると、
夜の大通りをもつれる足で、駅へと向かって走ったのです。

結局、友人に渡す荷物は持ってこられませんでした。

続く

457 名前:「靴音」 LL COOL J太郎 投稿日:03/10/24 21:04
2日後、皆と相談して、近くの神社からお払いに来てもらうことになりました。
いくつかお札を貼ってもらったその日から、もうあの靴音は聞かれなくなりました。
しかし私は、今も皆が帰った後の倉庫には入れません。
あの靴音がまた聞こえてくると嫌だからです。

あの子はいったい何が望みだったのでしょうか。
いまでも寂しくころがった一組の青い靴が忘れられません。

終わり。

ってなわけだ。
退屈してるオマエ達に、こんな長い話をわざわざ書いてやる親切な俺だ。

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