ホーム > 洒落怖 > Part 1-100 > Part 21-30 > Part 25 > 土蔵 2016/04/16 284 名前:さたな 投稿日:03/01/31 00:58 北大阪のM市に住む大塚さんの話である。 大塚さんは、四、五歳くらいになるまでよく、母親に連れられて 今は人手に渡ってしまっている“おばあちゃんのお家”に行っていた。 その“おばあちゃんのお家”に関する記憶で、大塚さんに強く残って いるのはどういうわけか次のようなものである。 “おばあちゃんのお家”には、土蔵があった。 ほの白い、ぶあつい壁のそれは立派な土蔵で、母屋からはずいぶん 離れていた。 大塚さんもよくその土蔵のそばで遊んだりしたのだが、どういう わけかおばあさんは大塚さんがそうすることを喜ばなかった。 というよりも、遊んでいるところを見つかると、いつも大目玉を食って いたのである。 「**ちゃん、遊ぶなら前栽か、おうちの中でお遊び。いいかい。ここで 遊んじゃだめだよ」 そういった意味のお小言を、何度も言われた大塚さんである。 それにしても、蔵の中ならばともかく、蔵のまわりさえ近づいてはいけない とはどういうことなのか? 危ない、近づいてはいけないというなら、井戸のまわりの方が先にくる のではないだろうか? 285 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/01/31 00:59 ともかく、子供というものはダメといわれるとよけいにそれをやりたく なるものだ。 蔵の入り口にはいつも頑丈な鍵がかかっていたが、一度だけどうしたものか、 その入り口が細く開いていたことがあった。 もちろん、大塚さんがそれを見逃すはずはなかった。 (探検だ!) 小さな窓からなんとか光が入ってくるだけの蔵の中は、湿気ていて、ホコリ っぽく、独特の臭いがした。 想像とは違って、ほとんど何もない。がらんとしている。 ただ、二階へと通じる急な階段が、入り口からすぐはじまっていたのが 大塚さんの興味を誘った。 ぎいっ。 みしっ。 ぎぎい~っ。 みし~っ。 歩く度に板が軋んで、いかにもあぶなげだった。 (なあ~んだ) 286 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/01/31 00:59 二階も一階とそれほど変わらない。 やっぱりほとんど物は見当たらなかった。 大塚さんは、少しがっかりした。 歩く度にホコリが舞い上がって、かすかに差し込む陽光がいくつもの光の カーテンをつくっていた。 目を引くものといえば、それくらいのものだった。 もっとホコリを舞い上げようとっして、汚れるのもかまわずにバタバタ 走りまわっていた大塚さんが、何かにぶつかったのはその時だった。 (あっ!) 大塚さんは、はねとばされて、その場にしりもちをついた。 それからきょとんとした顔になった。 なぜなら、自分が何にぶつかったのか、ぜんぜんわからなかったからだ。 何しろ、物らしい物がないところなのだから。 そこには、ホコリが静かに漂っているだけだ。 なんいもない。なんにも……。 287 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/01/31 01:00 ミシリ。 しんとした中で、何かが軋む音がした。 大塚さんの背後だ。 階段からだ。 誰かが階段の板を踏んでいる……? (おばあちゃん?) 大塚さんは、反射的にそう思った。 たった今ぶつかったものも気になったけれど、土蔵に入り込んでいる ところを見つけられて、叱られるということの方がもっと気になった。 で、なかば首をすくめながらそちらに振り返った。 顔が、そこにあった。 大塚さんの知らないおばさんが---たぶん女だったというのだが--- 階段の中ほどに立っているらしく、二階の床すれすれに大塚さんをじっと 見つめていた。 顔は、唇あたりから上しか見えない。 このあたりが、ひどくあいまいだが、髪の形も顔の特徴も、ほとんど 大塚さんはおぼえていない。 288 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/01/31 01:00 ただ、その目というのが、いっぱいに見開かれているにもかかわらず、 黒目の部分がほとんどまぶたに隠れてしまっていた。 まったく死んだ魚のようだった。 顔は、すぐにすっと下にひっこんだ。 それっきり二階に上がってもこないし、外に出ていく音もしない。 いきなり、大塚さんは泣きだしていた。 べつだんどこか痛いわけでも、今の知らないおばさんに何をされた わけでもないのに、とにかく大声で泣いていた。 その声を聞きつけて、母親たちが駆けつけてきたのは間もなくだった。 予想に反して、大塚さんはまり怒られなかった。 ただ、土蔵の中でこういうことがあったというと、母親たちは急に 黙ってしまった。 その夜、大塚さんが座敷で寝ていると、襖の向こうから母親とおばあ さんが話をする、小さな声が聞こえてきた。 290 名前:終り 投稿日:03/01/31 01:02 「また、開いていたよ。……錠前が落ちていてね。いったい、どうなって いるのかねえ」 「そうはいっても、アレだけ取り壊していいものかどうか。アレのこと は、あの人にも言われていたんだけど」 「出入りの**さんが見たときには、白けたニヤニヤ顔のが、薄暗がりの 中に、ぎっしり立っていたというじゃあないか」 「話し声も、だんだんひどくなってくるし」 「私もこの頃じゃあ、すっかり気が弱くなったよ。…母屋のほうにまで 入ってきたらどうしようかと思って、夜は廊下を一人で歩けやしないよ。 このあいだも、もの凄い気配だったんだよ。悲鳴をあげたんだよ」 と、おばあさんが訴えていたのが、妙になまなましく思い出せるという のである。 292 名前:ほんとの終り 投稿日:03/01/31 01:07 大塚さんが成人する前に、“おばあちゃんのお家”はなくなってしまった。 例の土蔵もそのとき、取り壊されてしまった。 今となっては、大塚さんの体験が何であったのか、あの土蔵には何か わけがあったのか、親戚も含めて知っている人間は誰もいないようだ。 現在では、“おばあちゃんのお家”があった土地には、どこか誰かの 家が建っている。 しゃれた、洋風住宅だ。 外から見たかぎりでは、ごくふつうの家のように見えるのだが、昔、 土蔵があった場所までふつうかどうかはなんとも言えない。 B! LINEへ送る - Part 25, 洒落怖