どうしたらいいのかわからなくてしばらく眺めていると,
いつのまにか連れのダイバーがすぐ側に来て,私の肩を叩き,
ある方角を指差しました.
その方角を見やると,ダイビングの装備をまったくしていない,
至って普通の格好をした老人が鎌で少女たちを刈り取っているのです.
無表情だった少女は,刈り取られる瞬間,何ともいえない
苦痛の表情を浮かべます.
海中でも叫び声が聞えてきそうな表情でした.
しかし,その顔も,やがて切り取られた足下から広がる少女の血によって
見えなくなってしまいます.
そうして老人は少しずつ私たちの方へ近づいてきました.
やがて,私たちのすぐ側までやってきた老人は,
完全に固まっている私たちの方へ顔を向け,にやりと笑い,
手にした鎌を差し出しました.
まるで「お前たちもやってみるかい?」とでも言わんばかりに.
次に気づいたとき,私たちは二人とも病院のベッドの上でした.
酸素がなくなる時分になっても上がってこない私たちを心配した
仲間のダイバーが助けてくれたのです.
そのダイバーはわれわれが見たようなものは見ていないといいます.
「海ではいろんな幻覚を見るものだ.それが海の怖さであり,
素晴らしささ」と,その年長のダイバーは私たちに諭すように言いました.
しかし私ははっきり言えます.あれは決して幻覚などではなかったと.