次の日も、僕はバイトの帰りに女子寮の前を通りました。
ひょっとしたら彼女にまた会えるんじゃないかって思ったんです。
いました。
彼女が昨日と同じように、体を半分カーテンに隠して立っていました。
次の日も、次の日も、垣根越しに挨拶をするだけの関係が続きました。
僕は焦らずに、時間をかけて彼女と仲良くなりたいと思っていました。
ただ一つ、気がかりだったのは彼女の顔色が良くなくて、日に日にやせている。
僕はもう、彼女のことが心配でならなくて、ある日、
とうとう女子寮の中に入ってしまった。
男の僕が名前も知らない彼女に会いに来たといっても、
当然入れてくれるはずもないから、表からではなく裏口から入りました。
彼女の部屋の中は真っ暗で、かろうじて街頭の光が窓から差し込む程度です。
彼女の影はそのわずかな光の中に浮かびあがっています。
彼女は後ろ姿のまま立っています。
僕は怖がらせないように彼女に声をかけました。
『僕のことわかる?』
彼女は無言でした。
その時、彼女の横顔がちらりと見えました。
近くで見た彼女は本当にげっそりしていて、顔色もひどく悪かった。
僕は彼女のことを本気で心配しました。
決して邪な気持ちではなく、彼女のことを本当にいとおしく思い、
僕は彼女の手を取りました。
たとえではなく、氷のように冷たい手でした。
そのとき、後ろの方から声がしました。
『誰だ!!誰かいるのか!?』
僕は驚いて彼女の手を離しました。
懐中電灯で顔を照らされると、いきなり腕を捕まれました。
寮の管理人でした。
僕は決してやましい気持ちで入ったのでは無いことを説明しようとしました。
『この部屋の人が心配で、なんか具合が悪そうだったから・・・・』
管理人のおじさんは僕の前にいる彼女に懐中電灯を当て、
そして悲鳴を上げました。
彼女は窓際のクーラーの配管にロープをかけ首をつって自殺していたのです。
彼女が亡くなったのは僕が初めて通りかかった夜だそうです。
僕は首をつって風に揺られている彼女に一目惚れをしていたのでした。