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タイムカプセル

   

6901/8 sage New! 2012/05/27(日) 02:44:37.39 ID:ufPJMSeg0

俺が車を運転していて、同乗しているのはA、B、Cの男3人。助手席のAが言った。
「かったるいな。ほうっておいてもよかったんじゃないか。わざわざ掘りに行かなくてもよ。」
俺「まあそう言うな。30分もかかりゃしない。同級会には余裕で間に合うだろ。」
俺たち4人は今日1時からの成人式を終えたばかりで、時刻は3時半過ぎ。
1月の冬空はもうすでに薄暗くなってきている。
車が向かっているのは俺たち4人が卒業した中学校の裏山にある神社。
B「あの神社まだあんのかよ。俺たちの頃からすでにボロボロだったじゃんか。」
俺「大丈夫だよ。いくらなんでもたった数年で崩れ落ちたりはしないさ。」
この町に残っているのは家業の手伝いをしている俺だけで、
A、B、Cの3人は別の市の高校を卒業した後、県外の大きな都市で就職している。


6912/8 sage New! 2012/05/27(日) 02:45:20.94 ID:ufPJMSeg0

裏山と書いたが、神社があるのは小高い岡の上で高さは百メートルもないだろう。
下に小さな公園があり、そこから長い石段が続いてその上に二十くらいの鳥居がかかっている。
俺「ほら、着いたぞ。さっさとやろうぜ。」公園の前の道の路肩に車を停めた。車を降りると
「うっ、寒。」3人が口々に言った。みな慣れないスーツの上にコートを着ているんでよけい寒さが
こたえるようだ。3人ともいわゆるサラリーマンではなく、いつもはダウンなんかで過ごしている。
B「にしてもよ。雪が降ってたら掘り出せなかったんじゃないか。」
俺「俺らが卒業して以来、積もるほど降ったことはないよ。さあ登ろう。」
「しかしこの石段懐かしいな。部活でよくダッシュさせられたもんだ。」と野球部だったC。
もうわかったと思うけど、俺たちは中学校の卒業式の後に埋めたタイムカプセルを掘り出そうとしている。


6923/8 sage New! 2012/05/27(日) 02:46:17.36 ID:ufPJMSeg0

石段を登りながら、「ところでDのやつやっぱり自殺だったのか。」言いにくそうにBが聞いてきた。
俺「・・・Dか。警察では はっきり結論は出ていないみたいだな。自殺とも事故とも。」
Dはやはり俺たちの中学の同級生の1人で、高校受験に失敗して、滑り止めの学校には行かず自宅で
浪人していたが、その年の6月にすぐ下に見える中学校の4階の屋上から落ちて亡くなっている。
B「不思議な話だよな。やつは自転車を持ち込んで屋上で乗り回してたっていうんだろ。ありえねえ。
学校には警備保障だって入ってるんだし、警報が鳴るはずだろ。」
A「自転車担いで階段を昇ってったなんて信じられん。しかも真夜中に。」
俺「わからんから! 俺に聞くな。」俺は立ち止まって見下ろすと、Dが落ちたという中学校の北校舎の
屋上がはっきり見える。 C「ところでタイムカプセルでDの書いたやつどうする?」
俺「燃やしちまわないか。お前らライター持ってるだろ。」

6934/8 sage New! 2012/05/27(日) 02:51:35.77 ID:ufPJMSeg0

Dが自殺だったかはわからない。ただ、Dが本命の高校を落ちたのは明らかに俺たちのせいだ。
Dは俺たちのグループの中では一番弱くて、メンバーがむしゃくしゃしているときにはイジメ
まがいのこともあった。それでも仲間外れになりたくないのか、俺らの前では嫌な顔一つしたことがなかった。
あの時までは。・・・中学校を卒業する1ヶ月くらい前、A~Dと俺の5人で、
町の校外にあるつぶれたパチンコ屋に肝試しに行った。経営者が自殺したとか、ホームレスが住みついて
死んだとかいろいろ噂のある場所で、俺たちはそこに行くまでの道中でさんざんDをおどしつけたあげく、
二階に昇ったときにDを事務所のような一室に閉じ込め、ドアを近くにあった手押し車でふさいで逃げ帰った。
次の日、Dは学校には来たが、誰にもまったく口をきかなくなり、俺たちの中では比較的勉強もできたのに、
受験を目の前にして何もしなくなってしまった。あの後何があったか聞いても、うらめしそうに俺たちを
にらむだけで口を閉ざしたままだった。


6945/8 sage New! 2012/05/27(日) 02:52:20.84 ID:ufPJMSeg0

俺たちは卒業式の後そんなDも無理矢理さそって、この神社に来て社殿の下に潜り込み、それぞれの書いた物を
ガチャガチャのカプセルに入れて砂に埋めた。
C「しかしあんなちゃちいカプセルもうなくなっちゃったんじゃないか。」
俺「それならそれでいいさ。ほら着いたぜ。」
A「ところでよ、ここまで誰も何もいわなかったから俺も黙ってたけど、お前ら何書いた?」
B「まあ・・・掘り出せばわかるだろ。」
俺たちは中学校卒業の日、この神社で未来予測を書いてタイムカプセルに入れた。つまりDも含めて5人が
5年後の成人の日にどうなってるかを予想してそれぞれが書いたのだ。
ひときわ大きな鳥居をくぐると社殿が見えた。
A「それにしても暗いな。まだ4時前だろ。」C「冷てえ、今ポツンときた。みぞれか、急ごうぜ。」
俺たちは鐘を鳴らし簡単に神社にお参りを済ませた。


6956/8 sage New! 2012/05/27(日) 02:53:11.64 ID:ufPJMSeg0

俺「俺が入っていくよ。しかし暗いな、懐中電灯は車にあったのに。」みぞれが急に強くなって残りの3人は
神社の軒下に入ったようだ。俺はスーツの膝をつくようにして這い、さして大きくはない社殿の中央あたり
まで進んで砂を手探った。その手がすぐにツルッとしたものに触れた、ものすごく冷たい。
・・・これだ。俺はそのカプセルをつかむと外へと這い出た。夜のような暗さで、みぞれは吹雪に変わっている。
C「おい、あったのか。」俺「あったよ、ほら。」透明カプセルの中が透けて見え、中の紙は5年たったとは
思えないように古びていない。俺はカプセルを持って3人と同じように社殿の軒下に入り、
俺「どうする、車に戻って開けようか?」 B「・・・いや、今見てしまおう。」
カプセルを開けて、ノートの頁を切って折りたたんだ紙を取り出す。吹雪が音をたてて渦巻きはじめた。


6966/8 sage New! 2012/05/27(日) 02:56:33.95 ID:ufPJMSeg0

Aの名前が見え、Aがとても嫌そうな顔をした。みなの前に広げてみせると、俺やB、Cについては結婚するとか
適当なことが書いてあったが、Dについて[5年以内に死ぬ]と書かれていた。
俺「・・・お前も書いたのか。」 B「俺もだ、あいついやに落ち込んで暗くなっていたから。何となく腹立たしくて、
高校を落ちたのも俺たちのせいみたいでよ、俺も書いた。」 C「俺も・・・あいつの暗さは異常だったからさ。」
紙を広げてみると次々に出てくる[Dが死ぬ]の文字。


7018/8 sage New! 2012/05/27(日) 04:38:41.42 ID:dT4bDqoI0

そして最後にDの名前が弱々しくシャーペンで書かれた紙。広げてみると、
俺「かすれてて読みにくい。えーとA、B、C、俺(の名前)が死ぬ・・・・・このカプセルを掘り出した時に!」
そのとき急に吹雪が強くなった。俺たちがもたれている神社の扉の中からかすかに声が聞こえたような気がした。
Dの声のような気がした。
そしていつも鍵がかかっているいはずの神社の観音開きの扉が、俺たちの背を押すように、少しずつ少しずつ
開きはじめた。





おわり

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