洒落怖超まとめ

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人が人を喰う

   

719 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/05/08 11:38 ID:HJGmgNlR
638です。また、怖い話を・・・。既出でしたら済みません。

昔の暮らしの中で、飢饉は言い尽くせないほど、惨たらしいものだった。
天明の飢饉の中では、特に東北地方で顔も背けたくなるような酷い話が残っている。

天明二年。この年は三月頃から雨が降り出し、七月頃まで降り続いた。
その為にせっかく出来た稲も雨のせいで腐り、或いは洪水により流された。

その前の年も、更にその前の前の年も雨のせいで、農作物が腐り、流され、田畑も傷みきっていた。
凶作はその頃から始まっていたのかもしれない。
冬になると急に暖かくなり、菜の花が咲き乱れ、竹の子が出来て人々を驚かせた。
が、それもつかの間で、年を越すとにわかに寒くなり、その寒さは夏になっても続いた。

七月。
太陽がカンカンに照り、地獄のような暑さが続いた。
人々は何かが起こるのではと予感し、それに畏怖した。
人々の予感は当たった。

八月。
地が割れるような大音響と共に、浅間山が大噴火した。
溶岩が村を押し流し、死者の数は数え切れないほど出た。
火山灰の為に、利根川の流れが、変わったともいわれる大噴火だった。

-続-

721 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/05/08 11:57 ID:HJGmgNlR
719続き。

その後は延々と続く雨だった。農作物は腐り、木の実は熟さずに木から落ちた。
雨はなおも降り、辺りを暗くして降り注いだ。

それでも手のひら程でも農作物を収穫したいと願っていたが、
更にその出来事に追い討ちをかけるが如く、大霜が降りた。

人々は精も魂も抜け果てた。

餓えがやってきた・・。
前の二年にも続いて、凶作は更に続いた。

葛の根、蕨の根、所々の根を掘り、
藁を粉にして練って炒り焦がしにしたものを食って、人々は食いつないだ。
犬や馬といった動物を食い、紙を煮て食うことを覚えた所では、寺のお経の本を全て煮て食った。
ある領主は心を痛め、飢饉を切り向ける方法を農民に教えたが、
それは、泥や排泄物を煮て食えという方法だった。

しかしそれにも関わらず、飢饉は人々を襲った。

-続-

725 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/05/08 12:14 ID:HJGmgNlR
721続き。

ついに、『人が人を食う』日が来た。

ある家に、吹雪の中を一人の女が尋ねてきた。
「御免くだされ。此方では爺様が亡くなれたよし、片腕なりと、
 片足なり分けて下され。おらの家の婆様もニ・三日には片が付きそうな様子、
 その節はすぐにお返ししますんで・・。」
そう言って死人の肉の貸し借りさえあったそうだ。

八戸という所ではこんな事があった。

ある村の、かなり豊かな家があったが、
飢饉のせいで、家族六人のうち四人が餓えで死んでしまった。
父親と十歳の子だけが残った。
父親は、こうしてはおれんと思い、家中のものをありったけ背負い、
子を家に残し、町へと出かけた。

身も悶える寒い日だった。
口に入れるものは何も無い。
子は餓えに耐えかね、床に落ちてた煤けた縄を噛んでいる内に、
我が指をしゃぶり、食いちぎってしまった。

-続-

733 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/05/08 12:48 ID:HJGmgNlR
・・それではお言葉に甘え、続けさせて頂きます。

>>725続き

父親が戻ってくると、子が血に塗れ、泣きながら自らの指を食っている。
余りの切なさに、父親は涙も出ず、呆然と立ち尽くした。
そして気を取り直し、買ってきた僅かばかりの食べ物を子にお腹一杯食べさせた。
そして寝入ったところを、鎌で首を掻っ切って殺し、更に自分も自分のはねて死んだ。

そこへ、他所に嫁入った娘が父と弟の身を案じてやってきた。
見ればこの有様だ。
彼女は泣く泣く夫の下へ戻って、夫にいうと、
「おれ達も、いつ死んじまうか分からぬ身だ。葬式を出す時節でもないから、
 家に火をかけて来い。犬に食われでもするより良かろう。おれも後からいくから。」
そう言われてそのまま戻っていった。

そして火をかけようとしたが、二人の死体を見ているうちに、
空腹に耐えかね、囲炉裏の火に、死体の片腕を炙ってみた。
二人とも食っていってしまった。
餓えを満たすと、もう親も無い、兄弟も居ない。
後からやってきた夫と自分の子を鎌で討ち殺し、これも食った。

女はもう人間では無くなった。
腕や脚は太くなり、目の色も異様に光り、髪を振り乱して野を駈けずり周り、
死人を求めて彷徨った。
飢饉の中なので死人の数は計り知れなかったから、
群がる犬を蹴散らし、人間の死体に齧り付く。

-続く-

736 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/05/08 13:05 ID:HJGmgNlR
733続き。

遂には生きている人間の子供にも手を出すようになった。
こうなると放っておけなくなり、村の者は集まって、鎌や鍬を振り上げ女を追い払った。
が、振り上げる腕はおぼつかなく、かえって獲って食われそうだった。

ようやく山中に追い払ったが、今度は薪を取りに入る者を襲った。
村中困り果てたが、遂にある猟師の鉄砲の弾に撃たれて、死んだ。
生きながら鬼になった女の話だ。

平賀町という所にも悲惨な話が残っている。
松野部落の、ある下の川の崖下が、赤ん坊の捨て場になった。
その崖は崩れやすく、這い登れないからであろうか、いつと無くそこに捨てるようになった。

まだ生きている内に捨てるのだから、泣き、叫び、崖をよじ登ろうとしては、
土もろとも崩れ落ちる。それでも赤ん坊は、母親の乳を求めては這い登ろうとする。
幼い指からは血が滲み、やがて力尽きて泣き声も次第に細くなる・・。
朝になれば烏が黒雲の様に襲い、目を啄ばみ、腹を裂いて更に啄ばんだ・・。

-続-

737 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/05/08 13:19 ID:HJGmgNlR
>>736続き。

・・ある夜。一人の老婆が実の息子に引きずられて崖の上に来た。
「助けでくれ!助けでくれ!!もう決して食いたいなんて言わねぇがら!!」
老婆は泣き叫んだが、息子は聞く耳を持たない。
そしてむしゃぶり来る老婆を崖の下へと突き落とした。
川原に転げ落ちた老婆はしばらく息が出来なかったが、
ようやく辺りを見回し、ゾッとした。

見渡す限り赤ん坊の白骨、腐乱した赤ん坊の死体、
烏に食い荒らされたままの赤ん坊の死体。
そして今尚生きる赤ん坊のすすり泣き・・・。まさに地獄であった。

「おら、死にだくねぇ・・、死にだくねぇよぅ・・!」
老婆は土を掴み、よじ登ろうとして、ハッと気が付いた。
掴んだのは、そう・・、千切れた赤ん坊の足であった。

恐らく烏の食い残しか、落とされたときに千切れ飛んだ赤ん坊の足なのだろう。

-続-

739 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/05/08 13:38 ID:HJGmgNlR
>>737続き。

投げ捨てようとして、老婆は手を止めた。
ノロノロとそれを我が口に持っていき、気が付いたときには骨までソレをしゃぶっていた。

それ以来、老婆は捨てられた赤ん坊を食って、命を繋ぐようになった。
獲物を奪われた烏は不気味に輪を描いて飛び、やがて老婆に襲い掛かった。
「しっ、しっ!あっちさ行げ!!」
老婆は朽ちた木の枝の様な手を振ったが、烏の群れは一向に襲うのをやめない。

老婆は立ち上がって、振り払おうとした。
しかし、老婆は赤ん坊の骨に足を滑らせ、転倒した。
その瞬間、烏達はそれを合図とするかの如く、老婆をつつき始めた。

目を抉り、着物を引き裂いた。
老婆は崖の土を掴み這い登ろうとしたが、土はいたづらに崩れるばかり。
烏は容赦なく、その髪を、足を、そして手を引き裂いた。
やがて、烏達が飛び立った後に横たわっていたのは、
白骨と化した老婆の死体だった・・・。

そのときより、この川を『崩川』と呼ぶようになった・・・。
飢饉が納まってからも、そこからは、

夜な夜な、赤ん坊のすすり泣く声や老婆の悲痛な叫びが、
夜風に混じり聞こえてきたという・・・。

-完-

 - Part 71, 洒落怖