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埋められた鳩

   

666自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 20:32:42 ID:ri7Mty6fO


「埋められた鳩」1

高校の頃、鍵を忘れて、家に入れなかったことがあるんだ。
時間的に1時間もせずに母上が帰ってくるはずだったから、近所のゲーム屋で暇でも潰そうと足を運んだ。
そしたらそのゲーム屋の隣にある車屋の前に、鳥の死体が落ちてたんだよ。
鳩なんだけど、前日の雨のせいで目茶苦茶冷たくなっていた。
あんまりだったから体育のジャージで包んで(感染症怖い)通っていた中学校に持ってったんだ。
顔見知りの先生にスコップと校舎裏の使用許可貰って、途中で会ったコンビニ帰りの友人Kと一緒に埋葬して弔ってあげた。
Kがビニール袋をくれたから、それに入れて口をきつくしばって土が入らないようにして、結構深いところに埋めたと思う。

んで、半年ぐらい前だ。
Kと、あとT、Aで心霊スポット(町外れの廃工場)に遊びに行った。
町外れにある、小学校ぐらいの敷地の半分が工場で、残りの半分に駐車場と事務所的な建物が建っていた。
事務所っても小さいわけじゃなくて、4階建てで小学校の校舎ぐらいは余裕であった。
たとえるなら、小学校を想像してくれ。
あれの校舎が事務所で体育館が倍ぐらいになったのが工場。運動場の半分ぐらいの駐車場だ。
少し離れたところに車を止めて(運転はA)、全員で近づいた。


667自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 20:34:50 ID:ri7Mty6fO
「埋められた鳩」2

調べたところ、敷地は2メートルぐらいのコンクリ壁に囲まれている。
で、鎖で封じられていた鉄製の門(これも校門を想像してくれるとわかりやすい)を開けることにしたんだ。
鎖は南京錠で固定されていた。
乗り越えるか破壊してもよかったんだけど、俺がピッキング出来る人だったから、鞄から愛用の工具箱を出して解錠を始めた。
ちなみに南京錠程度しか開けられない。最近のマンションの鍵とかマジで無理。
で、Aが「じゃあ車をこっちに持ってくるから、それまでに開けておいてくれ」って言って車を取りにいって、ちょうど戻ってきたところで俺は諦めた。
南京錠が随分と錆びてて、開けようがなかった。
そしたらTが俺の工具箱からげんのうを取り出して、いきなり南京錠に叩きつけた。
かなり赤錆でボロボロになってたからか、その一撃で南京錠の輪の部分が砕けて鎖を解くことに成功したんだ。
で、その結果を笑いながら敷地に入って、Aが入口をに向けて車を止めるのを待って、とりあえず事務所のほうから見ることにした。

668自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 20:36:42 ID:ri7Mty6fO
「埋められた鳩」3

中は目茶苦茶で、俺たちよりも前に来た奴らがいたのか、不自然にガラスが割れていたり菓子やビールとか飲食物の包装とかが落ちていたりして、
T「俺たちもなんか持ってこればよかったな」
俺「煙草でも飲むか?」
K「お前しか吸わねーよ」
俺「いや、煙草は吸うんじゃなくて飲むっていうんだぞ」
とか話しながら奥に進むと宿直室みたいな部屋があった。
T「なんか探そうぜ」
ことになって、みんなでいろいろと漁ったら、一つだけ開かないロッカーがあった。
K「出番だぜ」
言われて見てみたら簡単なタイプだったんで、工具箱からマイナスドライバーを取り出して鍵穴にぶち込み無理矢理こじ開けた。
A「……それってどんな鍵でも開けれるのか」
俺「バイクとかもいけるけど、あれは直結したほうが早いな」
K「犯罪者だな」
俺「やったことはない……捨ててあるバイクで練習したことはあるけど」
とか話しながらロッカーの中を漁ると、古びた財布が出て来た。

669自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 20:38:54 ID:ri7Mty6fO
「埋められた鳩」4

T「おっ、ラッキー。5000上下?直でもいいぞ」
Tがそれをつまみ上げ、そういった。
つまりは5000円より多いか少ないか、当てろということだった。
直っていうのはぴったり当てること。
K「下だな」
A「下」
俺「直で、入ってない」
T「おい、俺強制で上じゃねーかよ。
まあいいか……おっ、金は無いな。お前の勝ちだ」
そういって、Tは俺に財布を投げてきた。
中を見ると確かに金は無く、随分と古ぼけた写真が一枚入っていた。
おそらく家族の写真だろう、どこかの公園に美人とは言い難いが優しそうな女性と、幼い少女が映っていた。
俺「いるかよこんなもん」
俺は財布をロッカーの中に投げ捨て、突き刺したままのマイナスドライバーをベルトに挟み込むと、4人で次の場所を目指した。
階段を上がって廊下を歩いていくと、工場のほうに行ける渡り廊下があった。
K「そういや、なんでここ潰れたか知ってるか?」
T「知らねー」
A「知ってるのか?」
K「なんかここ、金属加工の工場らしいんだけど、プレス機に事故で何人か挟まれて死んだとかなんとか」
俺「うわ、それは嫌だな。
どうするんだよ、まだそのプレス機残ってたら」
T「写真でも撮るか?
その死んだ奴の霊が写るかも知れねーぜ」
そんな感じのノリで工場に入って、幾つかの機械を見てまわった。

670自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 20:40:59 ID:ri7Mty6fO
「埋められた鳩」6

手回しのウィンチとかあって、TとKがそれをクルクル回して遊んでいた。
そのとき、
A「……待て。
ここって、廃棄されてから5年は経っているよな」
K「ん?ああ、たしかそのくらいだ」
俺「それが、どうかしたのか?」
A「だったらどうして、油をさしていないはずのウィンチがそんなにまわる?」
僅かな沈黙。
そして突然、近くにあった重機の一つが倒れた。
それと同時に物凄い瘴気と悪寒を感じ、慌ててまわりを見回した。
すると工場の奥から黒い影みたいな、明らかに人外のなにかがたくさんにじり寄って来た。
T「……ちょ」
K「な……なんだ」
A「驚いている場合か!走れ、逃げろ!」
Aがそう怒鳴り、俺たちは近くにあった工場の窓を開けて急いで外に出た。
全速力で走って逃げたんだけど、なにかとの距離は離れず、逆に少しずつ近づいてきたんだ。
それでもやっとのことで車まで辿り着いたら、
A「鍵落とした!」
俺「そこをどけぇっ!」
俺はベルトに挟んでいたマイナスドライバーを鍵穴に叩き込み人生初にしてたぶん世界最速の自動車破りを達成した。
全員で飛び乗って鍵を閉めて外を見ると、誰もいなかった。
ほっと一息ついた瞬間、両側のドアになにかがぶつかった。
そのままメキメキって音を立てた。
明らかにプレス機にかけられていた。

671自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 20:43:10 ID:ri7Mty6fO
「埋められた鳩」7

俺はAに頼まれて鍵穴の辺りを叩き壊して、
昔俺にピッキングとかの技を教えてくれた先輩から一度だけ聞いた車の直結方法を思い出しながら、それを試した。
エンジンがかかり明かりがつくと、なにが車を押し潰そうとしているのかが見えた。
人間の手が無数に車に張り付いてもの凄い力をかけていた。
T「早く出せ!潰されてんぞ!」
A「分かっている!アクセルが効かないんだ!」
Aはアクセルを何度も踏み込み、実際にタイヤは回っているのだが、明らかに手たちの力が勝っていた。
いよいよフロントガラスが砕けようとするかしないかの刹那に、どこからか、鳥の羽ばたきが聞こえた。
その瞬間、手たちは一瞬だけその力を弱めた。
一瞬で十分だった。
アクセル全開で車は走り出し、あっという間に敷地外に走り出た。
工場から1キロぐらい離れて、車から降りた。
見ると、車自体にはなんの損傷もなかった(俺が破壊した部分を除く)。
普通ではない点は二つ。
車体に大量についた、機械油の手形。
そして車の屋根の上にあった、鳩の羽根。
俺「もしかして、あの時の鳩なのかも知れない」
K「……ああ、あれか。多分、そうだろうな」
AとTにそのことを話すと二人とも俺に感謝した。
鳩抜きにしても、車を起動させたことに。
その後、俺たちがあの廃工場に行くことはなかった。

672自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 20:45:01 ID:ri7Mty6fO
「埋められた鳩」8

後日。
もうずっと入院している先輩のお見舞いに行った。
この人は今の親が医者で、
血筋は魔術師の家系で、
自分は錬金術師で、
読むだけなら世界中の全ての言語が分かって、
写真記憶が出来て、
俺にピッキングの技術やツールをくれて、
病気で高校を中退してて、
とりあえず多芸な人だった。
まあ自称が多かったけど。
で、病室でこの話をしたらにやりと笑ったんだ。
「違う。違うんだよ、それは。
ここじゃなんだし、ちょっとついてきて」
そういって、先輩はいきなり自分の腕から点滴の針を引き抜いた。
「いいんですかそれ?」
「あーいいのいいの。どうせ生理食塩水だし。
点滴していたほうが病人らしいからね」
そういって廊下を歩いていく先輩を追うと、先輩はナースステーションで看護師さんに声をかけた。
「あれ、ある?」
「はい、これ。……無理しちゃ駄目よ?」
「分かってる分かってる」
笑いながら、先輩は受けとったもののうちの一つを俺に投げて渡した。
パンの耳だった。
先輩は受けとったもう一つのもの、どこかの鍵をくるくると指で回しながらエレベーターに乗る。
俺が乗ったことを確認すると、最上階のボタンを押した。

673自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 20:47:07 ID:ri7Mty6fO
「埋められた鳩」9

「……そこって」
「ホスピスだよ。
向かっている場所はそこじゃないけどね」
チン、という電子音とともにドアが開き、先輩と俺はエレベーターを降りた。
すると、先輩は病室があるほうではなく、階段に向かって歩いていく。
ついていくと、やがて鍵のかかったドアがあった。
先輩は受けとった鍵でそれを開け、ドアをくぐる。
あとに続いた俺は、予想通りの光景をみた。
そこは、屋上だった。
「今は使われていないけどね。それにやはり、病院の屋上は閉鎖される傾向が強いよ。
ホスピスがあるような病院は特に、ね」
「先輩はどうして入れるんですか?」
「ああ、簡単なことなんだけど、下手に禁止にするより許可制にしたほうがいいって判断されたんだ。
特例で、ね」
そして、先輩が屋上の真ん中辺りに立つと、待っていたのかたくさんの鳩が一斉に飛んで来た。
「ほら、それを渡して」
「あ、はい」
先輩はパンの耳を細かく千切りながら、鳩たちにあげていく。
「いつもやっているんですか?」
「隔週一回ぐらいかな」
やがて、異様に高い屋上のフェンスに二人でもたれかかると、先輩は俺の胸ポケットから勝手に煙草の箱を取り出した。
「駄目ですよ、病人が煙草なんか飲んじゃ」
俺はそういって取り返そうとしたのだが、先輩は既に一本抜き取ってくわえてしまった。
「火」
「だから駄目ですって

676自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 21:17:25 ID:ri7Mty6fO 番号振り間違えた。

「埋められた鳩」10

「……百年と五十年の差、二秒と一秒の差って、違うと思う?」
「え?」
突然先輩は、そんなことを言った。
「どちらも半分にしただけなのに、多くの人がその本質から目を背けて、長い短いで判断する。
無意味なことに気がつかない。人間は今この一瞬だけにしか生きていないのにね」
いつの間にか、先輩は俺のライターを奪って、煙草を飲んでいた。
「……もう、長くないらしい、この身体は」
深々と煙を吸い込むと、先輩はそう言った。
「医者はもって半年って言ってた。ようするに、余命は大体一年ぐらいかな」
昔、先輩に聞いたことがあった。
医者は余命を短めに宣告すると。理由は、考えるまでもない。
「一年が半年になっても、生きている今が充実していることのほうが大事なんだよ」
「……一本だけですよ」
流石にそんな話をされては無理矢理やめさせることも出来ない。
「さて、この研鑽された知識の蓄積が朽ち果てる前にその話を聞けてよかった。
長くなるが、聞いてもらうぞ」
鳩たちが食事を終え、飛び去っていくのを見上げながら、先輩は静かに話しはじめた。

677自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 21:19:39 ID:ri7Mty6fO
「埋められた鳩」11

「まず、“正しい死に方”とはなにか。これについて考えよう。
さて、君にとって、正しい死に方とはなにかな?」
「……老衰、ですかね」
「そして?」
「家族――配偶者や親戚、子孫に葬式で弔ってもらいます。
火葬場で灰と骨になり、坪に入れられて、やがて墓に埋められます」
俺が答えると、先輩は楽しそうに笑い声をあげた。
「なるほど、確かにそれはこの日本社会における正しい死に方だな。
だが考えてもみろ、野性の動物や植物が死ぬときに、そんな風に死ぬか?」
「あ……」
「正しい死に方、それは糧になることだ。死した血肉は屠られ、その骸は地に還る。
それが絶対的に正しいし、そうでなくては駄目なんだ。覚えておくといい。
この世界で正しい生とは食うことで、正しい死とは食われることだ。
さて、君が埋葬した鳩。
果たして君が見つけなければ、どうなっていたかな?」
もはやそれは、考えるまでもない問いだった。
「死肉を食う虫や、或いは微生物に分解され、糧になっていました。
――正しく死んでいました」
「そうだ。だが君はそれに間違った死を与えてしまった。
ビニールなど、十年単位で消えるものではない。
それが、君の罪だ」

679自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 21:21:31 ID:ri7Mty6fO
「埋められた鳩」12

断言した先輩は、煙を吐き出す。
俺は先輩が一服し終わるのを待ち、問いを重ねた。
「それならば……どうして俺は、俺たちは助かったのですか」
「工場のは人間の怨念だ。
仲間が欲しいのか単に殺したいだけなのかは知らないが、間違いなく君を殺そうとしたんだ。
さて、ここで自分が正しく死ぬことを妨害された鳩の立場になって考えてみよう。
このままでは死んでしまう。そうしたら虫や微生物によって、その屍は正しく殺されてしまう――鳩はおそらくこう考えた。
だから君を助けた。
生き物にとっての最大の屈辱、糧になれないという悪夢を、君に見せるために」
聞いて、鳥肌が立った。
「俺は……死ねないんですか」
「少なくとも、悪霊とか呪詛の類に殺されることは絶対にないだろうな」
先輩は短くなった煙草の火を揉み消し、俺が出した携帯灰皿に入れた。
「分かったかい?君が犯した罪と、その罰が」
そう言って、先輩は空を仰ぎ見た。

680自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 21:23:34 ID:ri7Mty6fO
「埋められた鳩」13

「人間とはそういう業を背負っている。
生きとし生けるものの営み、食う食われるの関係外から干渉し、奪い尽くしていく。
ほら、あのゲームと一緒さ。
ちゃらららーちゃらららららーらららっらーちゃららーちゃららーらーらー、
ちゃらららーちゃらららららーらららっららららーらららーらーらー、って」
「……なんですかそれ」
「君はモンスターハンターを知らないのか?」
意外そうな顔で、先輩は俺に問う。
「聞いたことはありますけど……俺、ゲーム機持ってませんし」
「パソコンはあるだろう、フロンティアやりたまえ。
絶対にはまる……と、こんなことはどうでもいいな」
先輩はそう言って、一つ息を吐いた。
「死ぬ前に君に会えてよかったよ。葬儀には来なくてもいいからな」
「そんな……」
「人が間違った弔われ方をするのを見たいのか?」
先輩は、少し怒ったような顔をして言った。
「少しは気を使いたまえ。
これでも私は、女なんだ」
「いえ、参列させていただきます。
貴女の魂が、せめて正しく死ねるように」
俺は本心から言った。人間が弔うのは、遺体ではなくその心、魂を想ってのことだと、俺は思うから。
すると先輩は、少しだけ顔を赤らめて、
「君は馬鹿だ」
と、酷く適切なコメントを言った。

681自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/18(月) 21:26:04 ID:ri7Mty6fO
「埋められた鳩」14

もしあの日、鳩を埋葬していなかったら……
そう考えると背筋が凍る。
例の工場だが、この前取り壊されて更地になってしまった。
結局、あれが悪霊だったのか、或いはたちの悪い悪戯だったのかは、今でも分からない。
だけど、もし本当に鳩が俺を憎み、殺させまい死なせまいとしているのならば、果たしてそれは呪いなのだろうか。
祝福も呪詛も、対象の状態を固定することに違いはない。
あるとするならば、それは、込められている感情の質。
或いはこうも考えられる。
鳩が俺に、人にとって正しい死に方をして欲しいと願っている、と。
人の埋葬は異質だ。対象が肉体ではない。
弔われるのは死者の魂であり、心である。
何故なら人という生き物は、総じて心を持ってしまっているのだから。
だからこそ、人は生物として間違った死に方をする。
心を正しく死ぬために、その肉体を蔑ろに死ぬ。
……どちらが正しいのかは知らない。
だけど俺は、そのことを知っていたのではないかと思う。
あの日俺が、その魂を正しく埋葬した、平和の象徴たる一羽の鳥は。
「まあどちらでも、違いはない、か……」
俺はそう嘯き、煙草の灰を灰皿に落とす。
そしてマウスを動かすと、誇らしげにデスクトップの片隅に佇んでいる、
モンスターハンターフロンティアのショートカットをクリックした――


終わり

 - Part 251, 洒落怖