ミラーに、なにか黒いもやのようなものが映っていたのです。
それは走る僕の背中に、ぴったりとくっついていました。
僕は霊とかほとんど見えない人間だったので、恐怖よりも、
「ああこれがOさんの言っていた、付いてきたモノなのかなぁ」
という好奇心の方が強かったのを覚えています。
なんかそこに排気ガスが溜って色が濃くなっているような、そんな感じのもや。
そのもやはずっと付いてきました。トンネルを通った時にはちょっと大きくなった
ような気もしましたが、とりあえず付いてきているだけで、後ろの視界もききますし、
別に危ないことはない様子でした。
空は夕暮れ、だいぶ暗くなってきましたが、本格的に夜になる前に市街地に戻ることが
できたので、僕はもうかなり安心していました。
信号待ちで車列の一番前まですり抜け、信号が青に変わると同時にスタートダッシュを
かけました。その直後、ゴンと音がして、気が付くと僕はバイクごと路肩に転がっていました。
体中が痺れ、そして猛烈な痛みが襲ってきました。
信号はまだ、青になっていなかったのです。
黄色の信号で交差点に突っ込んできた軽自動車の横っ腹に、僕は赤信号を無視して
突っ込んでいったのでした。なぜそんな見間違えをしたのか…
確かに信号は青に変わった後だった。でも一部始終を後ろで見ていたOさんによると、
「お前の後ろの奴が、ぶわって広がってお前を包んでた。そしたら赤なのに、
クラッチつないで飛び出してったから、あーあ、やられたなって思ったよ…」
幸い、そんなにスピードが出てなかったこともあって、打撲で済みました。
警察を呼んで、保険屋に連絡して…後ろのもやはいつの間にか消えていました。
あれ以来、ツーリングにはお守りを欠かさず持っていってます。また、なるべく夕方、
逢魔が刻以前にバイクから降りられるようなツーリングスケジュールを組むように
しています。やばそうな場所には、もちろん行きません。
でも、最近あの黒いもやを、街中でよく見かけるのです。
ふとすれ違う見知らぬ人の背中についているのです。
最近あの池でなにかあったのでしょうか。