洒落怖超まとめ

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日記帳

   

部屋に帰り電気を点けると、日記帳が机の上に開いたまま置かれていることに気づいた。
窓を開けっ放しにしていた記憶はないが、風に飛ばされたのかも知れない。
4月から突然日記を書くことを思い立ち、それ以来これが特に無趣味な私の唯一の
日課となっていた。
「・・・ん?なんだこれ?」
日記帳の49ページ。その隣のページの私の書いた文字とは明らかに違う、乱れた筆跡で
びっしりと文字が書かれていたのだ。
私は部屋を見回した。まさか、泥棒?
…まさかな。泥棒が押し入った先で日記帳に何を書くというのだ。
もちろん、部屋が荒らされた形跡もない。
しかし、では一体誰が?玄関には鍵が掛かっていたはずだ。合い鍵は誰にも渡していない。
私はそこに書かれている文章を読んでみることにした。
―49ページ―

俺は大丈夫だ。見ろ。この日記が証拠だ。俺はここにいる。いるんだからな。いるんだ。
エレベーターなんかに乗らなきゃ良かったんだ。よくある話ではないか。エレベーターが
嫌にタイミング良く来すぎた。そこでおかしいと思うべきだったのだ。災難はいつ襲って
くるかわかったものではない。タクシーのラジオで聞いたどっかの会社の営業マンが車に
はねられて即死したとか言う事故を思い出す。名前は忘れてしまったがその彼もまさか自
分の人生が今日で終わってしまうなんて思わなかったに違いない。タイミングが良すぎる。
幸運はいつも不運の前触れだ。現実感?そうだよ。現実感がないというか。違う。違う。
大丈夫だ。そうだ。大丈夫だとも。俺は大丈夫だ。俺はここにいるんだ。 あの女だ。そ
うだ。大体おかしいじゃないか。深夜にエレベーターに。俺らしくもない。何を怯えてい
るんだ?そうだよ。これは現実だ。エレベーターにあんな陰気な女と二人っきりで乗って
みろ。現実かどうか。知るか。エレベーターに鏡があるだろ?姿見みたいな奴。そうだよ。
おかしいのはこっちだ。本当に存在してるのか? 鏡を見たら案の定だ。俺は降りた。当
たり前だろ。そうだよ。鏡には一人しかいなかった。二人乗ってるんだ。現実感がない。
今日は疲れた。家に帰る。おかしい。ここは俺の家か?家を間違えた。まさか。どうなっ
てるんだ。俺らしくもない。疲れてるんだ。そうだ。まさか。現実感がない。俺は気づいた。俺にはドアを開けて部屋に入った記憶がない。ドアを見ると鍵が掛かっている。俺は
中にいる。中に入れるはずがない。これは夢か? 思い出した。これは現実だが俺は現実
じゃない。俺は思い出した。馬鹿な。現実感がない。風景が巻き戻される。俺はエレベー
ターを降りた。どうやって?すりぬけた。エレベーターを?そうだ。すりぬけた。げんじ
つ感がない。かがみにうつってたのはおれじゃない。女のほうだ。おれはいない。まさか。
俺がいないはずはない。こわい。おれは机のうえの日きにじをかいてみる。かける。なん
だ。いるじゃないかおれは。そうだよ。これはげん実さ。おれはいる。まだふうけいはま
きもどってる。たくしー。らじおのにゅーす。会社員トラックに轢かれ即死。かい社いん
とラッくにひかれ即し。かいしゃいんとらっくにひかれそくし。なくなったのはなくなっ
たのはなくなったのはしんにほんこうぎょうの
おもいだした。しんだのはおれだ。おれはだれだ。おれはここにいる。だれ?しるか。げ
んじつかんがない。おれ ここにい のに。だれで いい。お にきづい くれ。そ だ。
こ のじ うにん。
きづ てく よ。お はこ に  から。
「なんなんだ・・・これ?」
文はそこでとぎれていた。
私はふと、頬に生暖かい風を感じた。

『きづ てく よ。お はこ に  から。』
『きづ てく よ。お はこ に るから。』
『きづいてく よ。おれはここに るから。』
『きづいてくれよ。おれはここにいるから。』

『気づいてくれよ。俺はここにいるから。』

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