洒落怖超まとめ

厳選じゃない、完全網羅のまとめサイトを目指しています

ヒッチハイク

      2023/03/06

443 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/10/14 21:09
以前遠距離恋愛をしていた。
彼女は関西、俺は東京に住んでいた。
九月の三連休、知人に車を借りて彼女に会いに行くことになった。
会社での仕事を終えて、夜の十一時くらいに東京を出発した。
体は疲れていたが、彼女会いたさに強行した感じだった。
途中のサービスエリアで仮眠をとるつもりだったが、
久々の長距離運転で興奮し、まったく眠たくなかった。
それでも、どこかで休まなければ、翌日の予定が狂ってしまう。
浜名湖のSAなんかいいかもしれない、売店が開いてればうなぎパイでも買うか、
車のスピードを落とし、トラックの後を追走しながらそう考えた。

444 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/10/14 21:19
 サービスエリアでトイレに入り、売店をのぞいたが閉まっていた。
自販でジュースを買い、あたりを少し見て回った。
普通車の駐車区画では、何台かの車が仮眠の為に停車している。
俺は少し離れた場所に車を移動し、寝ることにした。
蒸し暑い夜だった。湖に近いから多少涼しいだろうと思っていたが、
そうでもなかった。
ウィンドウを半分開けて、シートを倒して目を閉じる。
車のエンジン音が遠くなり、うとうとしかけた頃、
コツコツという音で目がさめた。
誰かが窓をノックしていた。

黒いノースリーブのワンピースを着た女性が立っていた。

445 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/10/14 21:20
いきなりの事で驚いたが、眠気はいっぺんで吹き飛んだ。
目の前にいる女性は若く、何か場違いのような妖艶さを全身から醸し出している。
「どうしました?」
どきまぎしながら訊ねた。
「名古屋まで行きたいのですが」
女性はそれだけぽつりと答えた。
名古屋で高速を降りる予定はなかった。時計は二時を回っている。
仮眠をとらなければ、朝には京都で彼女と落ち合うことになっている。
「だめですか」
「これってテレビの番組か何かですか?もしかしてタレントの人?」
女性は潤んだ瞳でこちらをじっと見つめていた。
興奮気味に色々話し掛けるが、憂いのある表情を浮かべて黙っている。
そして、小さく頭を下げると、立ち去ろうとした。
「名古屋までいいですよ」
俺は焦ってそう声をかけた。こんなことめったにあることじゃない。

447 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/10/14 21:22
女性は一瞬微笑んだようにも見えた。
助手席の方に回りこみ、隣に座るのかと思ったが、ドアノブに手を掛けて躊躇した。
(まあ初対面だし、ちょっと警戒してるのかな)
女性が後部座席の真ん中あたりに座るのを確認して、俺はエンジンをかけた。
ライトに映し出された二人組みの男がこちらを伺っていたらしい。
ハンドルを切ろうとして横を確認すると、車のドアを開けっ放しにした若い男が、
上目遣いでこちらを見ている。
(こんなモデルみたいな女が俺を選んだんだ。羨望の眼差しってやつかね)
その時は脳天気にそう考えた。

高速に出てから、その女性はバックミラーごしにこちらをじっと見ていた。
まずヒッチハイクすることになった経緯から聞こうとしたのだが、
列をなす大型トラックの騒音にかき消され、声が届かないようだった。
なかなか話が通じずに、というより、会話にならないまま車は西に向かった。
時々バックミラーに目をやると、女性は少し眉間にしわを寄せ、俺をじっと見つめていた。
「ちょっと気分が悪いので横になります」
「あっ、はい。どうぞ」


449 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/10/14 21:23
車はトンネルに入っていて、かなりの騒音だったのだが、はっきりと聞き取れた。
少し動揺してバックミラー越しに確認すると、女性の姿は見えなくなっていた。

話し掛けることがなくなって、少し落ち着いてきたのだと思う。
自分の今の状況を考える余裕が出てきた。
女性への下心や彼女に対する苦しい言い訳、友人らのうまくやった話などが
頭を駆け回ると、たちまち余裕はなくなった。
トンネルのゆるいカーブで突然側壁が迫った。
慌ててハンドルを戻すと、トラックのホーンが反響する。
ぎりぎりでやり過ごすとメーターは150キロを超えていた。
あやうく事故を起こしかけて、動悸が激しくなっていた。
スピードを落としてトンネルを抜けてから、前後を走る車のライトが消えた。
(疲れている。やっぱり休もう)

450 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/10/14 21:24
「具合どう?」
ほとんど車の流れが途絶え、一呼吸ついたところだった。
「いやあ、さっきはちょっと危なかった。」
返事はない。
すぐに美合PAの道路標識が見えた。
「寝てるのかな?」
見晴らしのいい直線で振り返ると、まっ白いふくらはぎが目に入った。
心もちスカートがめくれている。もう一度確かめようとすると、
突然女性が運転席に手を伸ばした。シートの左肩のあたりを指でつかんだようだ。
「大丈夫?」
そう声をかけると、苦しげにうーんとうめいている。
スピードを上げてPAに向かう。具合はどうか、持病があるのか質問するが、
女性は低い声で唸っているばかりだった。
車を駐車区画に入れ、いったん外に出て助手席の扉を開けた。
すると相手は体を起こし、一瞬こちらを睨みつけた。
「ねえ、どこが痛いの」
不安と混乱で強い口調になった。
「黙っていても分からないよ」
「水を」
女性は怒ったような顔でそれだけ言うと、額に手を当て頭を伏せた。

451 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/10/14 21:25
言われるままに車を離れ、水を求めて休息所へ走った。
ここまでくると、女性に対する好奇心より、不審な感じが勝っていた。
不安は的中した。
エビアンを買って車に戻ると、女性の姿はなかった。
トイレに行ったことも考え、しばらくあたりをうろうろしたが、
ついに女性は見つからなかった。
半ば放心状態で車にいると、彼女から携帯に電話があった。
「今どこらへん?ちょっと嫌な夢を見て目がさめたの」
どんな夢だったか聞くと、唖然とした。
俺が交通事故を起こし、救急車で運ばれるというのだ。
そのうえ、彼女は知らないはずの車種と車の色まで言い当てた。
「救急車に乗ろうとすると、知らない女がそこにいるの」
膝がガクガクと笑い出し、言葉を失った。
「あなたも連れて行くわよ」と女に話し掛けられ、彼女は目がさめたらしい。

その後、京都で無事に彼女と会うことができた。
ただ、一つだけ不思議なことがあった。
彼女にもらった室生寺の根付のお守りがなくなっていた。
紐の部分を残して、木彫りの花の根付だけがなかった。

452 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/10/14 21:26
部屋のカギといっしょにつけていたもので、東京を出るまでは確かにあった。
彼女にドライブでの経緯は話せなかったが、感謝の気持ちでいっぱいだった。
………あと反省の気持ちも。

後日談はあるが、洒落にならないのでやめておく。

454 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/10/14 21:27
 あまり気は進まないが、後日談を書こうか。
その時は漠然と、何か悪意のあるものに魅入られたと感じていた。
思い当たる節はあった。最初浜名湖のSAで女に話し掛けていた時、
周囲は引いた視線で俺を見ていたんじゃなかったか。
女は俺にだけ見えていた存在だったんじゃないかと。
結局俺は助かった。それは彼女のお守りのおかげかもしれない。
とにかく、明後日は東京に戻らなけりゃならない。一人で、
あの女を乗せたこの車に乗って。
俺は彼女に室生寺のことを聞いてみた。今はよく思い出せないが、
尼寺もあるとのことだった。
京都を散策しながら、俺はある尼寺でお守りを買った。
それを車のダッシュボードの奥にしまいこみ、厄除けになることを
祈った。

455 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/10/14 21:29
 無事に東京に戻ると、知人に車を返しに行った。
何となく、お守りはそのままにした。当然縁起でもない話はせずに、
すべては俺一人の胸にしまった。
それから二ヶ月ほど過ぎた頃。
俺の住むアパートの郵便受けに、ぼろぼろになったお守りが放ってあった。
悪い予感がして、すぐ知人に連絡した。
彼は仕事が忙しいらしく、お守りの話は切り出せなかった。
それでも、最近は私用で車を乗っていないこと、遠出する予定もないことを
聞き出せた。
一安心して暮れを迎えたある日、彼と共通の友人から電話があった。
彼が交通事故で亡くなったと言う。
家族にちょっと出掛けると話したまま、数百キロ離れた場所で事故を起こした。
彼になにがあったかは分からない。
ただ、あの女は今も、深夜の高速道路を彷徨っているような気がする。

 - Part 20, 洒落怖