洒落怖超まとめ

厳選じゃない、完全網羅のまとめサイトを目指しています

夢を見た

   

948 名前:長文野郎 ◆gT8.3e1cXg 投稿日:03/04/26 23:55
(一)
・・・・・・・夢を見た。
同僚のTの葬式が行われている。
「昨日までは、あんなに元気だったのに・・・」
と、女子社員が涙を流している。
俺は今にも雨が落ちてくるような曇天の下、焼香の順番を待っている。

目覚めたとき、その夢は鮮明に覚えていたが、電車に揺られているうち、
それは記憶の隅に追いやられていった。
やがて始業時間がきて、課内の朝礼が始まった。
Tがいないことに気づいた。
『あいつが遅刻するなんてめずらしいな』
と思ったとき、課長が口を開いた。
「T君の告別式が午後六時から○寺で行われる。昨日、通夜に行かなかっ
た者は時間をやりくりして必ず行くように。それにしても、T君は残念だったな。改めてT君の冥福を祈ろう。黙祷」
まさか・・・
Tが死んだ? だって、昨日はちゃんと出社していたはず・・・
俺の脳裏に昨夜の夢が甦った。
夢・・・・・夢の続きでも見ているのか、俺は。

949 名前:長文野郎 ◆gT8.3e1cXg 投稿日:03/04/26 23:56
(二)
・・・・・・・夢を見た。
どこかのレストラン。そこで、彼女が呟いた。
「もう、終わりにしましょう」
「でも・・・」
「貴方とはもう会えないわ」
彼女の頬をひとすじの涙がつたう。俺は絶句してワイングラスを眺めているだけであった。

日曜日の朝、嫌な夢を見たなと思いながら顔を洗う。
今日は彼女とデートの約束があった。しばらく忙しい日が続いていたため、久しぶりのデートだ。
彼女に電話を入れる。
彼女は、なかなか電話にでない。諦めて切ろうとしたとき、電話の向こうから不機嫌な声が響いた。
「何の用?」
「何の用って、今日の約束のことで・・・」
「もう、貴方とは別れたはずよ。約束なんかしていない」
「えっ・・・」
「じゃあ、切るわよ」
混乱している頭には、電話の「ツーツー」という単一な音だけが響いている。
どうなっているんだ?
いったい、どうなっているんだ・・・・・・

951 名前:長文野郎 ◆gT8.3e1cXg 投稿日:03/04/26 23:58
(三)
・・・・・・・夢を見た。
ひとりの初老の男がしゃべっていた。
「この厳しい状況の中、金融機関や取引先の協力のもとに・・・」
並んで聞いていた隣の男が呟いた。
「うちも、ついに倒産か」
初老の男、それはわが社の社長であった。
「・・・・・・・というわけで、真に心苦しいのではありますが、五十
年に渡り続いて参りましたわが社の歴史もここで幕を閉じざるを得ないことになりました」

足取りは心なしか重かった。
会社の正面玄関は閉じられて、数人の警備員が立っていた。
まさか。いや、そんな筈は無い。だって、昨日も社員がみんな元気に勤
めていた。成長こそ緩やかなものの、堅実な優良企業との評判であり、事実その通りである筈だ、わが社は。
俺は近づいて行き、
「入りたいのですが」と言った。
スーツの胸についている社章に気づいたのであろう。
「どうもご苦労様です。しかし、残務処理は昨日で全て終ったと聞いていますが」
「・・・・・い、いえ、その、ちょっと忘れものを・・・」
「うーん、忘れ物ですか。では急いでお願いしますね」
社内は静まり返っていて、人の気配はない。俺は自分の机に行ってみた。
そこは、何枚かの書類が散らばっているだけだった。

952 名前:長文野郎 ◆gT8.3e1cXg 投稿日:03/04/26 23:59
(四)
俺は力のない足取りで、近くの公園まで歩いた。
ひと気のないベンチにゆっくりと腰掛ける。
これは本当に現実なのだろうか。俺は狂っているのか。
最近、良く眠れないせいであろう、あれこれと考えているうちに、柔らかな春の陽差しは俺を眠りへと誘った。

・・・・・・・夢を見た。
目の前に白い大きなものが迫る。
不思議と音は聞こえない。何もかもがスローに感じられた。やがて、俺
は宙に舞い上がる。そして、アスファルトへと叩きつけられる。
白いもの・・・トラックのドアが開いて運転手が飛び出してきた。
「大丈夫ですか!」
その問いに答える間もなく、俺の意識は急激に薄れていった。

開いた俺の目には、知らぬ部屋があった。
白っぽい色で調度されている。
ちょうど、ひとりの女性が部屋に入ってきた。ややピンクがかった清潔そうな服を纏っている。
「ここは・・・・・・・俺はいったい・・・」
「あらあら、ちょっと記憶が混乱しているようね。でも大丈夫よ」
ようやく、俺は病院にいるのだということが理解できた。

953 名前:長文野郎 ◆gT8.3e1cXg 投稿日:03/04/27 00:00
(五)
「幸い骨折もしていないし、脳波も異常ないわ。かえってトラックのほうが重症じゃないかしら、ふふふ」
看護婦はそんなことを言いながら軽い検査をしていた。
「でも、ふらふらと車道に出て行ったみたいよ。まさか自殺でもしようとしたんじゃないでしょうね?」
俺は事故に会ったようだ。いつの間にかトラックに撥ねられたのだ。
いつのまにか? いや、違う。
夢で、夢の中で撥ねられた。それははっきり覚えている。それは・・・
「いや、最近眠れなくて・・・」
「気をつけてくださいね」
「看護婦さん」
「何ですか?」
俺のことを思い切りつねってみてくれ、と言おうとしてやめた。そんなことで夢か現実か分かるわけないじゃないか。
「いや、何でもないよ」
「じゃあ、もうすぐ食事ですからね。それまで良く眠っておいてくださいね」
看護婦は部屋から出て行った。

954 名前:長文野郎 ◆gT8.3e1cXg 投稿日:03/04/27 00:00
(六)
叫びたかった。夢なら覚めろ!と。
しかし、理性は病院という場所であることを俺に教えた。
テレビでも見るか・・・
リモコンを手にとると、スイッチを入れる。徐々に画面が明るくなり、
映像はひとりの男を結んだ。
「我々はここに歴史的な勝利を納めました」同時通訳が男の言葉を伝える。
「我々は最小限の犠牲で勝利を勝ち取っただけでなく、相手の犠牲も最小限に食い止めることに成功しました」
A国はテロを受け、I国に宣戦布告。場合によっては大きな戦争に発展
する可能性があったが、A国の巧みな外交と極めて効率的な戦闘により短期間で戦争を終結させた。
・・・・・外国ではこんなことが起こっていたのだっけな。このところ
頭が混乱していてすっかり忘れていたようだ。
俺は内心、苦笑した。
勝利演説はまだ終りそうもなく続けられている。
しばらく聞いていた俺に、やがて眠気がやってきた。
眠るのは正直言って恐かった。しかし、目が覚めると、全てが元に戻っているのではないかという期待もあった。
それに葛藤するうち、いつの間にか眠りに落ちていった。

955 名前:長文野郎 ◆gT8.3e1cXg 投稿日:03/04/27 00:01
(七)
・・・・・・・夢を見た。
赤茶けた大地が広がっている。どこまでも、どこまでも・・・
夢の中で、何故か俺は全てが分かっていた。
核戦争。
俺は誰かを求めて歩いている。
しかし、もう人間はおろか草の一本も地球にはなく、俺は地球上でたった一人だけ生き残った生命だということを。

 - Part 34, 洒落怖