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いのちだいじに

   

2381/22019/07/07(日) 19:53:07.02ID:RcnNgK300

それは、大学生になってすぐ。新歓の飲み会の帰りでした。
3次会まで飲み明かし、4次会に向かおうと言う友人をたしなめつつ、寮に帰る途中でした。
時間は深夜3時を回っており、妙な静けさがありました。

「次の店どうする~?」
「近所迷惑だぞ・・・静かにしろよ」

この時間出歩いている人間なんて我々くらいなものです。
・・・そう思っていました。
通りに並ぶ街灯の3つか4つ先に、子供くらいの人影があります。
まさか・・・見間違いだろ、そうじゃなきゃ何故?こんな時間に子供?考えを巡らせますが、確認しない事には分かりません。
近づいていくと段々と姿形が分かってきました。
黄色い通学帽、キャメルカラーのランドセル、手にはゲーム機・・・ゲームボーイか?
やはり子供のようです。それがはっきりと分かる距離まで来ると、何か聞こえました。

「いの・・・だ・・に」

子供の独り言でしょうか。
近づかないと聞き取れないし、こんな時間に一人子供を放っておく訳にもいきません。
虐待という線も考えられますし・・・声をかけるべきでしょう。

「君、一人?お父さんかお母さんは?」
「いのち・・・だいじに」

いのちだいじに?


2392/22019/07/07(日) 19:54:15.24ID:RcnNgK300

「言ってること分かる?大丈夫?」
「いのちだいじに・・・いのちだいじに!」

「え?どうしたの・・・」
「いのちだいじに!いのちだいじに!いのちだいじに!」

凄い剣幕で同じ言葉を連呼しています。
たまらず友人に助けを求めます。

「なぁ、この子の言う事分かるか?」
「どうした~?お前も酔っぱらってんのか?」

「いや、酔ってんのはお前だろ。この子供だよ」
「・・・どの?」

最初ふざけているのかと思っていましたが、友人の顔が段々と怪訝になっていき酔いも覚めてきたようでした。
友人には見えても聞こえてもいないようです。
可笑しな事を言い出した私を置いて帰ろうとしています。

「頭痛くなってきた・・・先行くぞ」
「いや、でも・・・子供が」

「いのちをだいじに!いのちをだいじに!」

通り過ぎようとすると一層大きな声で、早いテンポで同じ言葉を繰り返しています。

「見えない子供と仲良くな!そんじゃ、また明日」


2403/2 入らなかった・・・2019/07/07(日) 19:55:24.49ID:RcnNgK300

これ以上、友人を引き留める事も出来ず途方に暮れていると子供に変化が見られました。

「いのちを・・・にげる・・・にげる」

声のトーンが下がり、通りの脇の草むらに向けて歩き始めました。
この通りは駅と住宅街を結ぶだけの、ただただ真っすぐな道でした。
途中で脇に抜けても、畑が広がっているだけです。
不審に思い、子供を追いかけましたが、すぐに見失いました。
遠くの空が白み始め、時刻を確認すると既に4時半を回っていました。

翌日、友人が死んでいました。
学校に行くと、昨日の飲み会に居たメンバーが集まって騒いでおり、そこで友人が死んだ事を聞かされました。
荷物は荒らされており、強盗目的の殺人だったそうです。

2421/32019/07/07(日) 20:06:23.42ID:RcnNgK300 今、私は無事就職し、社会人3年目となりました。
去年は新人の採用は無かったのですが、今年はやっと後輩が出来て嬉しいです。

今日は次の現場の視察に来ています。

「ヘルメットはしっかりかぶって、腕まくりも止めてね」
「あ、すんません」

後輩はあまり話す方ではないが、素直で良い子です。
髪を染め、ピアス穴を見たときは嫌な予感がしたんですが、上下関係だけはしっかりしています。
ここの管理者の案内で現場を回ります。

「ここで少々お待ちください。次の建屋の鍵を取ってまいります」

5分ほどたったでしょうか。
後輩が異変に気付きました。

「なんだか臭くないですか?」
「・・・まぁ、工場だからね。そんなもんじゃないかな」

その時、出たんです、あいつが。

「いのち・・・だいじに」

建屋の影から半身だけ出し、こちらを見ています。
黄色い通学帽、キャメル色のランドセル、手にはゲームボーイ。

目的があるのか無いのか?何者なのか?また誰か死ぬのか?
分かりませんが、何か行動しなければ・・・


2432/32019/07/07(日) 20:07:32.66ID:RcnNgK300

「なぁ、あそこの影に何かいないか?猫みたいのが見えたんだが・・・」
「え?猫ですか?俺好きなんすよ」

やはり後輩にはあいつが見えていないようです。
この世の者では無いということでしょう。
では、何故?何故、私だけに見えるのか?
思考を巡らせるが、答えは出ません。
今は取り合えず、猫を探しに行った後輩を呼び戻します。
子供から距離を取りつつ、建屋の裏手に回ります。

「おい、ちょっと戻ってきてくれ!」
「臭!こっちのが臭いですよ。あっち行きましょう」

後輩は臭いに負け、こちらに戻ってきました。

「いのちだいじに!」

突然あいつが叫んだんです。驚いてそちらを見ると、初めて目が合いました。
厳密には、目があるはずの所には目は無く、暗い影の中に赤い光が二つ見えました。
それまで立っているだけだったのに、こちらにゆっくり近づいてきます。
ヤバイ。逃げなければ。
後輩に悟られぬよう、適当な理由をつけて誘導しました。


2443/32019/07/07(日) 20:08:37.33ID:RcnNgK300

「この臭いは異常だ。何か問題が起きているのかも知れない。これから守衛に行こう」

「いのちだいじに!いのちだいじに!いのちだいじに!」

あいつが走り始めました。捕まったらダメだ、本能でそう感じます。

「先輩!なんで走るんすか!なんで」

疑問はもっともですが、それに答える時間は無いです。
あいつは子供とは思えない速度で走り、言葉は聞き取れないほど早く繰り返しています。
今はとにかく逃げなければ、走らなければ・・・

気づくと守衛にたどり着き、あいつの姿も見えなくなっていました。

ドンッ!

後ろから爆発音。
振り返ると建屋が半壊していました。
あいつに捕まっていたら、爆発に巻き込まれていたのでしょうか?

後日、爆発の原因が分かりました。
あの異臭は可燃性のガスがタンクから漏れ出ていた臭いだったのです。

「あの時、何故走ったんですか?」
その後輩の疑問に、私はただ誤魔化すことしか出来ませんでした。

転載元:https://mao.5ch.net/test/read.cgi/occult/1561192635/

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