友人の視界で何かが動いた。とっさに、目でそれを探る。
シートのすぐ後ろ、丁度、子供が隠れていそうなあたりに、蠢く黒い塊の一部が見えた。
姿形は濃い闇に紛れて判別出来ない。
しかし、友人には、それが子供などではないことが、何となくわかった。
背筋を冷たいものが走った。
すると今度は、後ろから、女の子の寝息に混じって、妙な音が聞こえてきた。
カリ・・・パキッ・・クチュ・・・・
静まりかえった車内に、そんな音が微かに響く。
白い腕が、その音に合わせるかのように揺れていた。
グチュ・・・ガリ・・・パキッ
「うわああああ!」
そんな雰囲気に耐えかねたかのように、突然ドライバーが叫び声を上げ、
車を路側帯に寄せると、急停止した。
減速の勢いで女の子が目を覚ます。後部座席に、白い腕はもうなかった。
友人とドライバーは車を降りると、後部へ回りハッチを開ける。
荷室には誰もいなかった。白い腕も黒い塊もない。
しばらく荷物を動かしたりして探したが、それらしいモノは見つからなかった。
ただ、後部座席の後ろ、さっき音がしていた辺りに、黒い染みが数個あった。